小説恋になるまで
□あと一歩
2ページ/5ページ
「……どうしたらいいんだ、吉岡。美桜の可愛さが…」
「好きにしてくださいよ。てか南雲はもうどれが通常運転だか分からなくなってますよ…」
「えぇー。吉野先輩って天然だったんすね…」
ひそひそと話す三人に美桜は首を傾げる。
話終わった三人は美桜に向き直り吉岡が口を開いた。
「あのですね、南雲がヘタレていたのは吉野のことですよ?」
「は?俺?何が…?」
全く分からないとでも言いたげな美桜にさすがに大地が不憫だと吉岡も転入生も思った。
「よーするに、吉野先輩に好きだってずっと言えなかったヘタレだってことっすよ。」
「まぁ言っちゃえばそんなもんですよね、南雲」
「……ああ、まぁそうだな」
「……ッッ!///」
「うわ、吉野先輩赤くなった」
「レアですねー」
「可愛いだろ。でも好きになったら潰すからな」
顔を赤くした美桜は三人を睨んで会長席に座って仕事をしだした。
照れ隠しか、と大地は口元が緩んで吉岡にド突かれている。
「こっち見てねぇで仕事しろっ!」
「はいはい。全く、吉野は人使いが荒いですねぇ」
「んなことねーよ」
「んじゃ俺は部屋戻るっすー」
「もう来んな転入生は」
「………………」
「お前も仕事しろっ!然り気無く帰ろうとするな大地」
「……チッ」
転入生もとい美月と共に出ていこうとした大地は舌打ちしつつも美桜に言われたからか、しっかり言われたファイルのまとめをやり始める。
そんな大地をみて吉岡はこう思ったとか。
「(しばらく吉野ネタで脅せますね)」
どこまでも腹黒い吉岡であった。
「それにしても南雲、ここには来ているのに授業にはでないんですね」
「あー、授業はなー、怠い」
美桜いねーし、とさも当たり前かのように言う大地。
「貴方ってどこまで吉野中心なんですか…。」
「さぁな。もうずいぶん前からだろ。なぁ、美桜」
「……………俺に聞くな」
どうリアクションをとったらいいのかわからない美桜は気まずそうに一瞬大地を見てから再び書類へと目を落とした。
大地に好きだと言われることにはまだ慣れていないようで。
恥ずかしくなり、ああああああ、と叫びだしたくなる時もある。
照れてしまうのは癪だが照れずにはいられない。
そんな大地は天然で口説いているのか、確信犯なのか。
まぁ大地の場合は後者だろう。
恐らく楽しんでいるのだ。
照れている美桜を見る目がそれを物語っている。
「でも吉野」
「なんだよ」
「ダメダメな吉野をここまで面倒みてられるのも南雲くらいだと思いますけど?」
「いいぞ、吉岡。もっと押せ」
「吉岡、大地が調子にのるからやめてくれ」
「そのようですね。」
「オイ吉岡。テメェはどっちの味方だ!」
少なくとも南雲だけの味方ってわけじゃないですよ、としれっと答える吉岡はさすがだ。
どこまでも人をいじり倒そうとしているのがよく分かる。
そして美桜も分かってはいた。
ここまで生活能力が皆無な自分がこの学園で生きていられるのは大地のお陰であることを。
よく愛想を尽かさずにやっているなぁと美桜自身が感心するくらいだ。
不良のくせに家事をこなす。
その姿は丸で……
「……………専業主婦だな」
「いや、嫁は美桜だ。そこは譲らねぇ」
「やっぱり南雲はどこかキャラおかしいですよね?それともこれが通常ですか?」
「吉岡、気にしたら負けだ…」
「ああ、はい…」
気持ちを暴露したところで大地の中の何かが外れたのか、以前にも増して美桜馬鹿になっている大地に慣れるのにはそう時間はかからないだろう。
.