小説恋になるまで
□恋とは遠く
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南雲大地side
二週間いたイギリスからやっと帰ってこられた俺はあいつの所に向かう為、無駄に豪華な校舎を歩く。
今回、5日間だけで帰ってくるつもりが、じいさんに引っ張り回されて二週間にまで延びちまった。
「あのくそじじい」と口には出さずに何度文句を言ったことか。
おかげで、全く自己管理ができないあいつを二週間もほっておくことになってしまった。
副会長の吉岡がいるからそこまで酷いことにはなってねぇだろうが心配なもんは心配だ。
ようやく着いた生徒会室のドアをノックもなしであければ驚いた役員の顔。間抜け面して…。親衛隊が見たら大変だな。
次の瞬間、吉岡には早速嫌味を言われ、三森は相変わらずユルいし、永峰は喋らねーし。
そんな三人を軽くあしらい、間抜け面をしている幼馴染みである吉野美桜に、持っていたイギリスの土産を渡す。
美桜は幼い頃からよく知っていて、俺の家族全員から可愛がられている。この学園に通い始めた頃はまだ小さくて可愛かった美桜を守れと俺は散々親に言われてきた。
昔からよく遊んだ俺ですら整っていると思うその容姿に、華奢な体はこの学校じゃかっこうの餌食だった。
今じゃ俺様生徒会長、なんて言われていてネコの生徒から絶大な人気を誇るこいつだが、昔はそりゃ可愛かった。
まぁ、面影が残ってないなんてこたねーけど、昔より逞しくなった。
顔よし、頭よし、運動神経よし。
一見完璧そうに見える、そんなこいつの唯一の欠点。
それは、自己管理が全くもって出来ないところだろう。
自分にたいしては、凄まじく疎く、凄まじく興味がない。
さすがにもう俺がいなくても大丈夫だろ、と高校入学を機に1週間ほうっておいたら寮の部屋の玄関で倒れていたことがあった。
あの時は焦った。まじで焦った。
それからというもの、嫌々ながら世話をし続ける俺は偉い。まじ頑張ってるよな、俺。
俺と美桜が幼馴染みだと知っている奴等は、俺が美桜に甘いと口々に言う。
まぁ普段校内じゃ話さねーし、クラスもちげーから、そんなに知ってる奴はいねーけどな。
断じて俺は甘くない。
ほら、ライオンの親は我が子を崖から落とすとかいうだろ。
って俺はあいつの親じゃなかった。
俺が渡した土産をさっそく漁る美桜に群がる会計と書記を横目に、自分の席で書類をこなす副会長である吉岡に小声で話しかけた。
その嫌そうな顔やめろ。
「なんですか。貴方みたいな暇人と違って僕は忙しいんです。」
「……お前本当に嫌味製造機だよな。」
「怒りますよ」
だってねちねち言うの得意じゃん。
「で、何か言いたいことでもあるんじゃないですか」
ああ、そうだったそうだった。
「俺がいない間、美桜の面倒見ててくれてありがとな」
思っていたより美桜の顔色がよかったことに安心した。二週間も離れていると気が気じゃない。
「ああ、いえ。いつもの事なのでいいですよ。」
…………………こいつツンデレか?
本当はこいつが美桜に一番甘いんじゃないかと俺は思ってる。
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