小説恋になるまで
□ずっともっと
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別荘に来て数日
今日は大地に誘われていた夏祭りの日だ。
あの人混みに行くのかと思うと少し気分が下がるはずなのに、大地は何故かすごく機嫌がいい。
そう言えば大地と夏祭りなんて行ったことがなかったかもしれない…。
これだけ長い付き合いなのにな。
そんなことを考えていると雪さんが来て突然腕を掴まれた。
え、なに
「美桜ちゃんはこっちよ!」
「え、あれ…」
腕を引かれるがままに着いていくと1つの部屋に押し込まれる。
「さあ、着付けするわよ!」
「え?」
「浴衣よ!」
え、浴衣きるのか?
浴衣なんて10年ぶりくらい着てないんだけど……
えーマジか……と思っている間に雪さんは鼻唄を歌いながら浴衣の柄を選んでいる。
十種類はあるそれに少し(いや結構)引いてしまう。
「うん、これがいいわね!」
数種類の柄を合わせられようやく決まった一着を早速着付けだす。
てか、浴衣を着て夏祭りとかデートみたいだな。
その、一応大地は俺のこと……好き、なんだよ…な?
ああ、自分で言ってて恥ずかしくなった…。
しばらくされるがままになっていると雪さんが口を開いた。
「ねぇ美桜ちゃん。大地にはいつ告白されたのかしら?」
「は?」
え?何だって?
幻聴?恐ろしい幻聴だな、おい。
「私としては大地のお嫁さんはもう絶対に美桜ちゃんだって決めてるんだけど、美桜ちゃんの気持ちも大事よねぇ」
……………おいおいどうなってんのこの家族。
幻聴じゃなかったのか。てかそんなオープンでいいのか。
「ふふ、大地が美桜ちゃんのこと好きなのは大分前から知ってるわよ」
柔らかく笑う雪さんに少し安心する。
だって男同士ってのはやっぱりマイナーだから。
それに、大地は一応次男で跡取りにもなり得る…。
「大地は次男で跡取りには長男がなってくれるわ。それにね、私は息子のやりたいように生きてほしいのよ」
こんな家に生まれたからって好きじゃない相手とはお付き合いや結婚はしてほしくないの。
そう言った雪さんの表情はいつものふんわりとした感じではなく母親のそれだった。
その表情を見て本当に俺なんかでいいのかという気持ちが大きくなる。
大地を本当に大事にしてやれる人は俺以外にもっといるんじゃないか。
そんなモヤモヤした考えを巡らせていると着付けが終ったのか雪さんは立ち上がる。
「難しくなんて考えなくていいんじゃないかしら?」
「え?」
「大地は美桜ちゃんを好きで、美桜ちゃんは大地を好き。お互いに一緒にいたいと思っている。これでいいと思うわ」
大地が好きで一緒にいたい……か。
ああ、なんだ…
口に出せばこんなにもすんなり入ってくる言葉を何で今まで分からずにいたのだろう、
俺はきっともうずっと大地なしの生活なんて考えてなかったんだなと実感した。
きっと何をしたって離れたくない、離れられないのは俺のほうなんだ。
自覚した途端この気持ちを言わなくちゃいけないと思った。
早く伝えなくちゃと心がざわざわと騒ぐ。
でもそれより先に…
「あの、雪さん――」
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