小説恋になるまで
□終わりの始まりの
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大地に告白…されてから1ヶ月ほどたって、夏休みに入った。
まだ返事はしていないし、大地も急かしてはこないからそれに甘えている。
そしてその間、色んなことがわかったような気がする。
大地は俺に甘すぎるっていう吉岡の言葉も分かるような気がする。
怠そうに俺がいう一言に見せる笑顔がどこか嬉しそうだったりするのにも気づいた。
飯についてうまいと言えば安心したかのようにはにかんだりするし、少し寄りかかってみれば一瞬ぴくっと反応したりとかするし、髪を乾かしてくれる優しい手つきとか、俺に向ける柔らかい眼差しとか。
そんな大地の些細な動きに目を向ければ、大地自身は変わっていなくても「ああ、全身で俺のことが大切だと言っていたんだなぁ」と改めて感じさせれられる。
気がつかなかったことが不思議なくらい大地から感じられるそれは、気づいてしまってからはものすごく恥ずかしい。
三森や吉岡がからかうのも頷けるくらい。
そして最近思うことが俺にはある。
モテるくせしてなぜ大地は俺を好きになったのか……。
それが謎で仕方がない。
こんな生活能力もなく、可愛いわけでもなく、性格がいいわけでもない自分は好かれる要素がないはず。
まぁ多少の顔の良さはチワワには人気だとは思うが。
"物好き"という一言では片付けられないくらいのそれを本人に聞く勇気はないんだから笑えるよな。
そんなモヤモヤした気持ちの悪い思いを抱えながらついに大地と別荘に行く日になっていた。
夏休み前、田辺に言われた言葉を思い出して変に意識をしてしまう。
何がお泊まりには色々ある、だ。
寮の部屋とは違う雰囲気だからと熱弁していた田辺には土産は買わないでおこう。
「あ?美桜変な顔してんぞ」
どうかしたか?と涼しい顔で聞いてくる大地すら恨めしい。
変に意識してる自分が恥ずかしいじゃねぇか…。
「…………………なんでもねぇ」
「?なら、いいけど。つか母さんたちが迎えに来るっつってたからそろそろだと思うんだけどな」
遅ぇなと呟く大地は今日も恐ろしいほどイケメンだ………とか思っている時点で俺はかなり大地に毒されている気がする。
大地の家の別荘は日本の有名な避暑地にあって大きなプールも完備され、とても広い作りになっている。
やっぱり一般家庭出身の俺からすると信じられないことだ。
そしてその別荘には申し訳ないが俺の部屋があったりする。
と言うかやさぐれパンダ(久々登場)を置く倉庫みたいになっているが…。
そんな使い方をしていることが物凄く勿体無い、実に勿体無い。
だが、家や部屋に置ききれないそれらを置いといていいという南雲家の皆の言葉に甘えている。
それにここには犬が二匹いるんだ。
コーギーとダックスフンド。
足の短い犬を飼っていると他の犬の足が物凄く長く感じるんだよな。
コーギーのコギオと、ダックスフンドのアヒル。彼らは可愛い。もう可愛すぎるくらいだ。
喘息持ちでペットを飼えない俺からしたら近づけなくても見られるだけで嬉しい。
彼らは元気だろうか、と考えていたのを大地の言葉に思考を現実へと戻した。
「お、やっときた」
大地の言葉で目線をあげるとオープンカーから大きく手を振る雪さんが見えた。
ああ、雪さん危ないですよ…。
車が目の前で停まり聖さんと雪さんが降りてくる。
「きゃーっ!美桜ちゃんいらっしゃーい!」
「ゆ、雪さんお久しぶりです。」
「おい、母さん!そんな勢いよく突進したら美桜が倒れるだろ」
「あら、突進だなんてそんなぁ」
勢いよく抱きつかれてよろけると大地が支えてくれた。
俺だって貧弱なわけじゃねぇのになんだこの差は…。
密かに悔しがっている俺を余所に大地と南雲夫妻は会話を進めいつの間にか別荘へ向かうことになっていた。
車から見える綺麗な山々に久しぶりに癒される。
こんな綺麗な景色を見たら年中チクチクと毒を刺してくる吉岡も穏やかになるんじゃないだろうか。
少しだけ肌寒く感じる風に隣に座る大地の体温が気持ちよくて眠くなってくる。
「なぁ大地、どんくらいで着く?」
「あー、一時間くらいか?」
「そーか…」
「おい、寝んのか?」
「んー、」
「寝んならもう少しこっちこい」
そう言って大地は自身のほうへ俺を引き寄せ寝やすいように寄りかからせる。
さりげなくブランケットをかけてくれるあたり本当にイケメンだ。
夏でもここの夕方の風は少し寒いからありがたいんだが、そういうことをさらっとやらないでほしい。
………なんでって照れるからに決まってんだろーが。
大地の体温をすぐ近くで感じ、眠気はどんどん襲ってくる。
ああ、これ寝るわ。
不思議にも大地の傍は眠くなる。
吉岡曰く「安心するからでしょうね」らしいが、なんだか納得だ。
「あら?美桜ちゃん寝ちゃった?」
「はは、美桜くんも疲れているんだね。大地は役得だね」
「あーら大地!ニヤニヤしてないでよー」
「母さんも親父も美桜が起きるから静かにしてろよ」
「ふーんだ!大地には美桜ちゃんアルバムもう見せないわよ!写真も焼き増ししてあげないんだから!」
「……………………」
この親どうにかしてくれ、と大地が切に願っていたのを知らずに眠っていた俺は、起きた時にやたらと疲れた顔をしている大地を見て首をかしげるのだった。
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