小説恋になるまで
□残るものは
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吉野美桜side
転入生からの手紙を適当に読み内容を把握し、それをゴミ箱へと投げ捨てた。
吸い込まれるかのようにゴミ箱へと入ったその手紙の内容にため息が出る。
だいたい俺の前だとキャラが違いすぎるだろ。
これじゃあどっちが俺様だか分からなくなってくる。
「あー、だる……」
本当に、色んな意味で怠い。
怠いなんて言っててもどうしようもないことなのかもしれねーけど、怠いものは怠い。
色んなことを、全部ひっくるめて怠いって言葉でしかあらわせない。
怠い、眠いが流行語を取りそうな勢いだぞ、マジで。
このまま転入生の言うことを聞いていても良いことはあまりないと分かってはいる。
けどそうすることで守れるものがあるのなら、俺はどんなこともやってやる。
初めから、俺には断る権利も、逆らう権利もないんだ。
「よしっ」
お望み通り、大地のところに行ってちょっくらかましてきてやろうか。
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とは言ったものの、
「大地が見つからねぇ」
あいつふらふらと何処をほっつき歩いてんだバカ。
忙しい俺に何分探させるんだ。
イライラしながら歩いていると、後ろから名前を呼ばれ振り向く。
あ、やばい。
「吉野様!!探しましたよ!」
「………シノ」
走ってきたのか息を荒げながら親衛隊隊長である篠崎奏人は怒っていた。
「あー、どうした?」
「どうしたじゃありませんよ!!お話は風紀委員長の黒須様から聞かせていただきました。どうして言ってくださらなかったんですか…」
黒須……話すなって言ったのに。
とりあえず、目の前の泣き出しそうな奴をどうにか宥めないとな。
「悪かったよ。別にお前にだけじゃない。大地にも言ってねーよ」
「え…?南雲様も知らないのですか?!」
「ああ。しかも今から突き放しにいく」
「え?」
シノは驚いた顔で俺を見てくる。
いつの間にか涙は引っ込んだみたいだ。
「シノが気にすることじゃねぇよ。俺は自分でそうしたほうがいいと思ってるだけだ」
シノの髪を撫でると悔しそうな顔をしながら頷いた。
「………わかりました。ですが!僕は吉野様の味方です!ずっと!」
また泣きそうな顔になるシノに呆れるが、それが自分のためだと思うと少し笑みが浮かぶのが分かる。
「シノ、大地がどこにいるかわかるか?」
「あ、先程屋上に上がって行くのを見ました!南雲様はまだ何も知らないと思いますので早く行った方がいいですよ!」
「そうか。じゃあ行ってくる。」
「はい。いってらっしゃいませ」
「ああ、……………シノ」
「はい?」
「ありがとな」
なんだか照れくさくてすぐに背を向けて屋上へと歩き出した。
後ろでシノが泣きながら「よじのざまあああ」と言っているのが聞こえるから違った意味で恥ずかしい。
「さーて、どう大地を突き放すかなー」
長年の付き合いで大抵のことはバレてしまう。
上手くやらなければ無理だろう。
「……………怠いな」
ため息が止まらない。
最近で一生分のため息を吐いているかもしれない。
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