小説恋になるまで
□恋とは遠く
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吉野美桜(生徒会長)side
ここは私立東雲学園
都心から外れた山奥にある金持ちが通う、全寮制おぼっちゃま学校だ。
初等部、中等部、高等部と多感な年頃に閉鎖的なこの空間で性的なものが向くのは、やはり同じ男子。
ここではホモなんてたくさんいる。
しょうがないと言えばそこまでなんだが、俺にはよくわからない。
そんな特異なこの学園の、特異な方法で決められる生徒会。
俺、吉野美桜はその生徒会の長。
つまり、生徒会長をしている。
好きでやってるわけでもないのに、仕事が多くて何となく損した気分だ。
生徒会室の会長席にぼーっと座りながらため息をつく。
「かーいちょー!」
「あ?」
「眉間に皺よってるよー?」
可愛いお顔が台無しだよ〜、と俺の頬を人差し指でつついているのはチャラ男で有名な会計の三森夕。
つかうっとおしいからつつくのやめろ。
顔を背けながら手を払うと、へらへらと笑いながら自分の席へともどっていった。
「三森………会長をからかわないでください。」
「え〜、だってかいちょーの眉間に皺の痕ついちゃうじゃーん」
「元からですよ」
「おいてめー元からってなんだ」
「本当のことを言ったまでです」
俺にこんな言い方する小綺麗な顔をしているこいつは副会長の吉岡拓巳。
ねちねちと嫌味を言うのが最高に上手い奴だ。ある意味、良い性格してる。そんなこと言った暁には、さらにねちねち言われるんだろうから言わないけどな。
そんなことを考えていると机の片隅にマグカップがそっと置かれた。
視線をあげると書記の永峰良樹が困ったように視線を彷徨かせていた。
「さんきゅ、永峰」
「あ、……う…ん」
お礼を言えば、少しだけ嬉しそうに自分の席へと戻っていった。
コミュニケーション能力が極端に低いことを除けば、普通に男前だ。
もう一人、会長補佐がいるがあいつは滅多に学校こねーからなぁ。
ガチャ
ドアがノックも無しに開けられ、必然的に全員の視線がそっちへと向く。
……あ、珍しくきた。
噂をすればなんとやら、だな。
「あれ〜?南雲っちがここ来るの珍しいね〜」
「ずいぶん見ないからのたれ死んでるのかと思いましたよ」
「めず、らし…い」
言いたい放題言われ、その人物はゆっくりと口を開いた。
「お前ら相変わらずキャラ濃いな。」
こんなとこにいたら俺までキャラ濃くなるだろーが。と失礼なことを言ってるこいつは南雲大地。理事長の息子で、会長補佐、そして俺の幼馴染みでもある。
大地は役員を軽くあしらい、俺のほうまでゆっくりと歩いてくる。
「美桜にだと」
そう言って紙袋を渡してきた。
思ったより重い。
「ああ、イギリス行ってたんだっけか。叔母さんたちにお礼言っといてくれ」
「ああ」
手渡されたのはイギリスのお土産。
大地の母はイギリス人のハーフで、大地自身はクウォーターってことになる。
それもあるのか、南雲家はとにかく美形揃いだ。お姉さんなんかモデルやってた気がする。
兄ちゃんも姉ちゃん、叔父さんも叔母さんも俺のことを本当の家族のように可愛がってくれてる。
美形なうえに、金持ち。
モテないわけがないんだ。
もちろん目の前にいる大地も、俺が知るなかで一番かっこいいと思う。
「…………………」
「なんだよ。ガン見すんな」
「あ、わりぃ。」
いつの間にかガン見してたみたいで大地に頭を掴まれ、強制的に視線を外された。………と思ったら次は大地がガン見してくる。
「……なんだよ」
「お前…………いや、なんでもねー」
「はぁ?」
人の顔をじーっと見といて何だそれ。文句の1つでも言ってやろうかと思ったら、大地はすでに吉岡と話していた。………なんだったんだ。
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