短編集(その他)

□出会えて
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今日は高尾の誕生日。
というのはみんなもともと知っていた。
「誕生会とかやってやったほうがいいんじゃねーの?」
数日前、そう言い出したのは意外にも宮地さんだった。
「おーいいじゃねーか。」
「そうだな。やってやるか。」
先輩たちも結構乗り気で。
「緑間はどう思う?」
答えなんて決まっている。
俺は笑って答えた。
「やってやるのだよ。」


「真ちゃん!」
高尾は今日も相変わらずくっついてくる。
もっと、俺今日誕生日なんだぜアピールしてくるかと思っていたが、いつもと変わらなかった。
こいつはこいつなりにいろいろ考えているから、きっと自分が誕生日だからって気を使って欲しくなかったのかもしれない。
ふとそう考えて、自分が結構高尾のことを理解していることに気付く。
俺は無言でシュートを打ち続けた。
「じゃあ先上がるわー。」
「うぃーっす!先輩達、今日は早いね。」
「そうだな。」
計画としては、先輩達が先に上がって部室を飾り付けている間、俺が体育館に高尾を留めておくというものだ。
「真ちゃんもいつまでも打ってないでさ、早く上がろうぜ?」
「そ、それは困るのだよ!」
言ってから暫しの沈黙。
失態に気付いた。
「真ちゃん…」
「違うのだよ!今日はちょっと調子が悪いから納得いくまで打ちたいだけだ。」
「いや真ちゃんいつもと変わんねーし、おは朝も1位だったし…。」
「ち、違うのだよ!そういう高尾こそ、今日は最下位だったではないか。」
俺の星座見ててくれてんだ嬉しー!なんて言う高尾を見て、また失態に気付く。
くそ。空回ってばかりで上手くいかん。
「煩いのだよ。こんな大事な日に最下位を取るとは…。」
「真ちゃん…覚えててくれてたの?」
目を輝かせてこちらを見る高尾を見て、本日3度目の失態に気付く。
「…たまたまだ。」
「そっか…そっか。ありがとな、真ちゃん。」
1人で勝手に満足して笑う高尾。
せっかく2人なんだ。今、言わなければ。
「高尾、誕生日おめでとう。」
高尾が驚いたように俺を見上げる。
その顔が余りにもアホで、俺は笑いながら言った。
「最初会ったときは変なやつだと思ったし、それは今も変わらないけど…。お前に出会えて、悪くはなかったと思っているのだよ。」
それを聞いて、涙目になりながら高尾が言った。
「真ちゃんツンデレわかりずらすぎ…。フフ。あんがとな!」
そろそろ時間だろう。
「先輩達が待っているのだよ。早く行くぞ。」
そう言って高尾の手を取ると、高尾はうっすらと頬に涙を流しながら笑った。
俺は涙でいっぱいのその目に小さくキスをした。

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