短編集(その他)

□待ってる
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今日は部活が午前だったから、午後から宮地さん家で勉強を教わっている。
でも、好きな人が隣で、しかも2人きりというのはものすごく緊張してしまうもので。
さっきからから回ってばかりだ。
「…おい、聞いてんのか高尾。」
「へっ?!あ、はいはい。」
「ったく。さっきからぼーっとしやがって。次聞いてなかったら絶対殴る。」
「怖いっすよ。」
だって、無理だろ。
近いし、変に意識するし。
…頼むんじゃなかったかな。
参考書を眺める宮地さんを眺める俺。
うわ…難しそう。
宮地さんは俺なんかと違って頭いいから。
たくさん努力してるの知ってるから。
バスケにおいても。
本当…そういうところ、憧れるんだよなぁ。
うん。やっぱかっけー。
「どした?」
見つめていたらふいにこっちを見た宮地さんと目が合った。
「あ、いえ別に…。」
慌てて目を逸らして、何か言わなくちゃって考える。
「あ、宮地さんは大学とか決めたんすか?」
「あー、一応。入れるかはわかんねーけどな。」
「そーっすか…まー大丈夫っしょ。頑張ってくださいね!」
うん。いつも通り笑えた。よし。
大学ねぇ…。この時期といえばそれくらいしか話題はない。
大学…。
宮地さん、卒業しちゃうんだなぁ…。
あと半年くらいで居なくなっちゃうのか。
バスケ部からも、秀徳からも。
宮地さん居なくなったら静かになるなー。
怒鳴って怒ってくれる人も居なくなっちゃうんだなー。
そっかー。そっかぁ…。
「何泣いてんの?」
「へ?」
宮地さんに言われてはっとする。
本当だ。俺、泣いてる。
「え、なんでっすかね。」
へへっと笑って誤魔化す。
「どうせお前のことだから、俺が居なくなることとか考えてたんだろ。わかりやす。」
「はっ?!違いますって!別に、そんな…。」
あーあ。何でバレちゃうかな。
くそ。かっこいいなぁ。
「宮地さん居なくなったら俺、どうすればいいんすか。」
気付いたときにはもう口に出てた。
あ、ヤバい、と焦っているのは俺だけで、宮地さんはそんな俺をじっと見つめてた。
「今まで通りでいいんじゃねーの。」
「まー、そうっすよね。」
「お前が不安ならいつでも行ってやるし、別に2年ぐらい待っててやるよ。」
…は?今なんて?
「あーやっぱ今の無し。お前なんて知らねーわ轢く。」
ぷいっとそっぽを向いた宮地さんの顔は確かに赤かった。
「轢くって…なんすか。」
笑って俺が言うと、うっせー、と小さな返事。
「待っててくれるんすか?」
「さーな。」
「えー、待っててくださいよー。」
「はいはい。待ってるよ。」
宮地さんが嬉しそうに笑っているように見えた。

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