短編集(赤司受け)

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鐘の音がする。
遠くから、でも鮮明に。
頭に重く響く。何回も。何回も。
もう何回聞いただろうか。
わからないけど、今の時間もわからないけど、まだ、大丈夫。
あと何段あるかもわからない階段を上る。
わからないことだらけだ、と思わず笑った。
ただ、唯一わかるのは、君の体温。
夜中の気温は肌に悪い。
でも、繋いだ手だけは温かい。
今年何度、この体温に救われたことか。
そしてまた来年も変わらないのだろう。
これからもずっとずっと変わらないでほしい。
どうやら想いが手に伝わったようだ。
「どうした?」
「ああ、ごめん。なんでもないよ。」
思わず強く握ってしまった手を緩める。
きっと彼も同じようなことを思ったのだろう。
俺が緩めた手を追うようにぎゅっと繋ぎ直される。
「寒いね。」
「そうだね。」
お互い口数も減ってきた。
さっきたくさん喋りすぎたせいだろうか。
2人で蕎麦を食べに行って、今年を振り返って、なんだかんだ3時間も店に居てしまった。
随分迷惑な客だったことだろう。
話は止まらないまま、そこらをぶらぶら歩いて、ようやく神社にやってきた。
そして今に至る。
何段あるかもわからない階段を上って疲れているせいもあるかもしれない。
まあ疲れているのは俺だけで、隣では涼しい顔をして上っているもんだから苦笑もする。
とようやく終わりが見えてきた。
最後の段を上りきって膝に手をつく。
辺りを見回すと、やはり人が多かった。
疲れと安心からか睡魔が突然やってくる。
欠伸をして、重くなった瞼を無理矢理開けた。
「少し休憩するか?」
「そうだね。」
俺の様子を見計らって征が言った。
近くのベンチに座る。
吐く息が白い。寒い。
繋がれた手だけは温かい。
遂に目を閉じた。


征と出会って約1年。
付き合い始めて約5ヶ月。
好きになってからは約1年。
長かったような、短かったような。
なんて言えばいいのだろう。
1年前の今頃は家でカウントダウンTVを見てた。
0時になってあけましておめでとうのメールも来た。送った。
その中に征からのメールもあった。
心を踊らされたのを覚えている。
ダメ元で送ったメール、返信があるとは思ってなかった。
その頃から、好きだった。
征はいつから俺のことを想っていたのか。聞いたことはない。
今度聞いてみようかな。
ふとそんなことを思う。
インターハイで2度目の再開。
またこれもダメ元で、告白したのは俺の方。
まさか頷いてもらえるとは思ってなかった。これっぽっちも。
それから連絡の頻度も増えて、2人で会うようにもなって、デートでいろんなところに行って、お互いの誕生日も祝って、この前はクリスマスも祝って、ってウィンターカップのさなかだったけれど。
今年1番多くの時間を過ごしたのは征ではない。
それでも、1番多く幸せな時間を過ごしたのは征だ。間違いなく。
本当に、ありがとう。
あなたに出会えてよかった。
あなたに恋してよかった。
同じ時間を過ごせてよかった。
ありがとう。
ありがとう。


「…光樹?」
俺の名を呼ぶ優しい声がしてゆっくり瞼を開ける。
こちらを覗き込む顔があまりにも愛おしくて。
俺は、幸せだった。
征が何も言わずに俺の頬を撫でる。
目の端を拭う。
そこで俺は初めて自分が泣いていたのだと知った。
「征、ありがとう。」
「僕も、ありがとう。光樹。」


2人で時計を見つめた。
あと1分。
あと1分で、終わる。
最後、最後、何をすればいいのだろう。
もう本当に最後なのだ。
征と付き合えた奇跡のような1年がもう終わる。
ああ、何か言わなくちゃ。
最後に、最後に。
「征!」
早く言わなきゃ。思ってること、全部。
「征。出会えてよかった。付き合えてよかった。好きになってよかった。一緒にいれてよかった。たくさんたくさん迷惑かけたけど、いろいろあったけど、本当、本当…」
その体温を、全身で。
背中に回した腕に力がこもる。
「1年間、ありがとうございました!」
せっかく拭ってもらった涙も意味がなかった。
今年最後の口づけは少ししょっぱい。
「愛してる。」
鐘の音が止んだ。
人々の拍手と歓声が聞こえる。
「僕も愛してるよ。」
今年初めての愛してるとキスをもらった。
また新しい1年が始まる。
こうして毎年1年を一緒に積み上げていこう。
何年も、何年も。

あけましておめでとう。

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