短編集(赤司受け)

□会わない
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「あ、キセリョだー!」
その名前に敏感に反応してしまう。
見ると、女子高生達が雑誌を持ってワイワイしているようだった。
丁度本屋から出ようとしていた僕はふと足を止めた。
それから、その女子高生達がいなくなるのを待って、彼女達が見ていた雑誌を手に取る。
涼太だ。
ただの紙の上に、涼太がいた。
モデルの顔をした”黄瀬涼太”がいた。
パラパラとページをめくる。
そこかしこに黄瀬涼太がいる。
どうやら特集のようで、1人で数ページも使っていた。
相変わらず人気者である。
しばらくそれを眺めてからその雑誌を元の場所に返した。
本屋を出る。
不覚にも、会いたいと思ってしまった自分が嫌になった。


涼太とは最低な別れ方をした。
中学を卒業するとき、僕の方からフッた。
京都と神奈川。
そう簡単に会える距離ではないことくらいわかっていた。
だから、会えないくらいならって。
会えなくて会えなくて、毎日寂しい思いをしたくなかったから。
させたくなかったから。
だったら赤の他人に戻った方がマシだろう。
そう、思ったんだ。
それきり連絡は取ってない。
もちろん会ってもいない。
だけど、たまにこうして紙の上の黄瀬涼太に会う。
流石はモデル。かっこいい。
でも、こんなの涼太じゃない。
僕と一緒にいたときの方が、もっと表情も柔らかくて楽しそうで…。
「…なんで泣いてるんだ?」
昔を思い出しては泣いてしまうから。
本当は、紙の上の黄瀬涼太にも会いたくないんだ。


涼太は何をしているだろうか。
何を考えているだろうか。
僕のことを覚えているだろうか。
忘れてくれただろうか。
ああ、会いたいよ。
本当は、とてもとても会いたいよ。
今でも、大好きだよ。
あの頃と変わらず、大好きだよ。
涼太に会って、抱きしめたい。
キスしたい。
また、笑いたい。
でもさ。
ずっとそのままではいられないんだ。
僕はここに戻って来なきゃいけないんだ。
こんな、広くて寂しい部屋に。
そしたらまた、君に会いたくなって。
きっと、今以上に泣いてしまうだろうから。
もう、会わないって、決めたんだ。

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