短編集(赤司受け)

□犬
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「赤司っち!犬ってよくないスか?!俺将来飼おうかなー。」
「なんだいきなり。」
「いや。さっき見たら可愛くって!赤司っちは?」
「…僕はもう飼っているようなものだ。」
なんなんスかー?と言う涼太にフフッと笑って返す。
犬…ね。
僕には大きくて煩くて、でも可愛くてかっこいい犬がいるから、もう要らないよ。


なんてことを話したばかりだった。
「征十郎君いらっしゃい。」
叔母さんの家に行った。
「クゥー。」
犬がいた。
「こんにちは。」
「ほら、上がって上がって。」
靴を脱いでいると、犬が僕の元へ寄ってきた。
足元でじゃれている。
どうやら気に入られたようだ。
「こらこら。征十郎君困ってるじゃない。」
「あ、いえ。お構いなく。」
「この子、もう相当おばあちゃんでね、目もあまり見えてないのよ。」
よく見ると、確かに目は黒く濁っていて若干充血もしているようだった。
「こうなると世話も大変だし、正直飼ったことを後悔してるわ。」
まあ気にしないで、上がって?と言う叔母さんに頭を下げる。
そうか。お前は僕が見えていないんだね。
知らない匂いを嗅ぎつけてきたってところか。
僕が犬を避けて歩き出すと、急に消えた空をキョロキョロし出した。
何も見えなくて、何も出来なくて、挙句の果てに飼い主にまで嫌がられて。
お前は、何の為に生きているんだろうな。
「クゥー。」
すっかり弱った鳴き声が、悲しく聞こえた。


「涼太。」
「なになに赤司っちー!」
呼べばしっぽを振ってこっちに駆け寄ってくる。
…犬だな。
ニコニコしながら僕を見るその犬をギュッと抱きしめる。
「あ、赤司っち?」
「涼太。ずっと一緒にいよう。」
僕は絶対お前を見捨てない。
「僕たちがおじいちゃんになっても、手を繋いで、笑い合っていよう。」
例え何も出来なくなっても。
ただ繋いだ手だけは離さないように。
「赤司っち?急にどうしたんスか?」
「ん。ごめん。」
離れると黄色い瞳が目に映った。
黄色く輝いている。
良かった。濁ってない。
「涼太…涼太…。」
涼太にしがみつく。どこにも行かないように。
「今日の赤司っちは甘えん坊さんっスね。」
そう言って僕の頭を撫でた後、おでこにキスをした。
「ずっと、離れないから。大好きっスよ。」

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