長編

□混濁ブラックアウト
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私は冷たい空気の匂いを嗅いで、重たい瞼を持ち上げた


ああ、絶望の現実が幕を開けてしまった


《あと一度、力を使えば彼は消えてしまう》


私はすべて覚えていた


ちらと横を見れば、吉継さんがまだ寝息を立てていた。外は白んできてはいるがまだ薄暗い

吉継さんの傷を治すために、ここまで運んでくるために
費やした力で、一体どれだけの《彼》を失ったのだろうと思うと歯がゆい気持ちになった


どれも私の弱さからだ

慶次の時も
梵天丸の時も
そして今吉継さんの時も

一人でいられない弱い私のせいで、自分で自分の中の《彼》を追い込んでいたんだ


「………」


見捨ててしまおうか
そうすればもう消費することも無い

そう思って立ち上がる。
吉継さんの寝顔を見つめながら、西に体を向けたときだった

包帯の手が、そっと私のくるぶしに触れた


「どうした、ごんべ」
「ち、ちょっと水を飲みに。」
「………ぬしは無茶をしやる。具合が悪いのであれば歩みを止めよ。もう大阪はすぐそばよ」
「…………」


すとん、とその場に腰を降ろした。
私の様子がおかしいと感づいた吉継さんが、ゆっくり上半身を起こして、どうしたと問いかける

背中を撫でて、優しく私を見つめる眼差しに、心臓が悲鳴をあげていた


─────私はあなたを見捨てようとしたんです

─────病気で動けないあなたを、置き去りに


個人主義を謳う私のなんと情けないことか
この人を置いてなどいけない
猿飛さんと幸村と別れて、ようやくと出会えた生の人間

優しくて、少し意地悪な吉継さんを、私は平気で見殺しにしようとしたのだ


「(私はなんて醜い)」


こんな私に優しくなんてしなくていいんです、吉継さん
私は今生きているあなたよりも、もう出会うことの無い思い出を選ぼうとしたんですから


「ごんべ?」
「…大丈夫です」


乗り掛かった船、そう自分で言ったのだ。最後までどうか責任を取らせてください


「準備をしたら、すぐに出発しましょう吉継さん」


力を使わなくても、必ず貴方を大阪まで送り届けてみせますから。






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