長編
□仮想恋人遊戯
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《番外編》
仮想恋人遊戯
(猿飛佐助)
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「何してるの?幸村」
「ごんべ政宗殿から花カルタが贈られてきたのだ!」
「あ、花札だ」
何のことはなく暇だった
ぶらぶらと上田城をお散歩して、最後に幸村の部屋の障子を開けると、畳に色鮮やかな絵札が散乱していた
それは私の世界でも馴染みのあるもので、よく部活の仲間とも活動終わりに遊んだものだった
「懐かしいなあ。…お、これは奥州花だね」
「奥州花?」
「地域によって…ああこの時代はまだ国によってって言った方がいいのかな?絵柄が若干違うんだよ。奥州の花札は二枚あるカス札のうち一枚に黒点が塗ってあるからすぐわかるの」
「詳しいのだな」
「まあね。………ん?奥州の?政宗って…」
おいおいいくら歴史に疎い私にだって奥州の政宗くらいはわかるぞ。すげえな幸村超有名人と知り合いじゃん。いや、君も大概有名人だけどさ。
「仲がいいんだねえ」
「…こ、好敵手にござる。仲がいいというよりはその、」
「いいよいいよ。なんか同盟?組もうかって話になってるとかって猿飛さんに聞いたよ。」
「むう…今は、織田の脅威もあり、いた仕方なく!いずれは決着を!」
「はいはいはいわかったから暑苦しいなお前は!」
すごんでくる幸村の頭を引っぱたいておとなしくさせる。
何だか納得のいかない表情の幸村をなんとかなだめようとして、【桐に鳳凰】を一枚突きつけてにやりと口角を上げた
「せっかくこんなにいいものがあるんだし、勝負しようよ幸村。勝ったほうは何でも言うことを聞く。どう?」
「な、なんで、も?」
「乗らないの?」
「…………本当に何でもいいのだな?」
「いいわよ」
「この勝負乗ったァァァ!」
「いいね!負けたら一枚ずつ服を脱いでいくんだよ!」
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「も、もう脱げないでござる!勘弁してくれ!ごんべ!」
「は?もう一枚あるじゃん。その真っ赤な赤フンドシが」
「きゃああああ!は、はれ、はれんっ!さすけぇ!さすけぇー!!」
「どうしたの旦那?!…………ごんべちゃん!!!」
バシィッと渾身の力で頭を殴られました。糞痛いんですけどお兄さん…
幸村は涙目になりながら猿飛さんに抱きついてるし、その幸村の頭を撫でて素早く着流しを羽織らせた猿飛さんが格好よすぎる。スーパーマンですか
いやちょっとまて…私が幸村を無理矢理手込めにしようとしたような状況になってるじゃないか
「どうもこうもそういう状況だったでしょ今の!!」
「勝負だもん。負けた人は従わなくちゃなんだよ?」
ひらひらと花札を猿飛さんの前にちらつかせる。
瞬時にどういう話で幸村がストリップ紛いなことをされてしまったのか理解した猿飛さんは
それはそれは深いため息をついたあと、どっかりとその場にあぐらをかいた
「俺様が旦那のあとを引き継ぐよ。それで旦那の褌は勘弁してやって」
「よ、よせ!ごんべの花カルタの腕は生半可ではないぞ!」
着流しを着込んでいた幸村は慌てて猿飛さんを止めていた
というか何勝手に服着てやがんだ話が違うだろ赤フンドシ野郎
「俺様が負けるわけないっしょ。ごんべちゃんなんかに」
「………ほぉー、言ったわね」
今のはカチンと来たよカチンと
これでも私、部活内では「花札の鬼女王」と呼ばれる程の腕で、無敗記録を破ったことがないのだ
コケにした罰は重くしてやらねばならん
「じゃあ私が勝ったら猿飛さん。全裸になってお尻で簪を挟みながら右手で木を全力で殴り付けながら左手は鼻に指を突っ込んで『命を大事に!』って叫んでくださいね」
「ごんべ!それは、あまり…に、ブフゥッ」
「ちょっと!俺様旦那のためにやってあげるんだから笑わないでよね!」
「いざ尋常に、勝負!!!」
「はいはい。さくっと勝っちゃうからね」
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「し、しんじられない…私が負けるなんて…」
「勝負あったね」
しかもただの敗けじゃない
ボロ負けだ
言い逃れのひとつもできないようなほどコテンパンにやられてしまった
ギギギと軋んだブリキの人形みたいに首を動かすと、にっこりと、それはもうにっこりと笑みを携えた猿飛さんが
簪を手に握ったまま
私に詰めよって来てくださった
「脱いで、ごんべちゃん」
「う、う、うわあああああああん…!!!!」
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「…どういう状況だ」
「こういう状況だよ」
今私は上田の城下町にいます
それも、ピンク色のかわいい着物に包まれて、頭には簪なんかを挿しちゃって、口許にはかるく紅を差して
猿飛さんにしっかりと左手を繋がれて
「…『命を大事に』よりはましだと思うんだけど」
「まあそうですけども…」
顔に施していたペイントを落として、髪の毛も下ろした猿飛さんは、緑色の着流しに身を包んでいて、なんだか初めて出会ったときを彷彿とする
「じゃ、行こっかごんべちゃん」
「まって、説明して!これどういう罰なの?!」
「…聞きたい?」
「言えよ」
「ごんべちゃんは今日一日俺の恋人ね」
「……はあああい?!」
猿飛さんがご乱心だぞー!!だからこんな風に私を着飾らせたりしたわけか!私は確かに性別的には女性だけど、それらしい振る舞いを求められると困るのよー!無理!
「とりあえず何か見に行く?」
「えっえっと、甘味処ぉ?とかぁ?」
「その猫なで声気持ち悪い」
「コンチクショオオオオ!」
「いつも通りにしてていいよ」
猿飛さんは、ふっと笑って私の髪を撫でた
その眼差しは兄のような
かつての《彼》のようなそれで、不覚にも私の胸はどきりと跳ねた
ほほに熱を感じて思わず両手で覆うと、彼は喉の奥で笑った
「ごんべちゃん行こう。演舞やってたんなら木刀とか好きでしょ」
「…行く!行きたい!」
可愛らしい着物に身を包んでいるのに、木刀やら真剣やらを見に鍛冶場に行ったり
お昼間からお酒を楽しんだり
幸村へのお土産を見繕ったりと
これ恋人じゃないよな
まあ猿飛さんは満足そうだし、私は楽しいから構わないんだけど
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「はあー、楽しかった!」
「そりゃよかったよ」
「今日はありがと!猿飛さん!」
「罰なのにありがとうなんて、変なこと言うなあごんべちゃんは」
「罰じゃないよ」
ごんべちゃんと一通り城下町を見て回り、もう日が傾いていた。
あの日、ごんべちゃんにクナイを突きつけた城下の入り口の橋で夕涼み中だった
ごんべちゃんは満足げににっこり笑って言葉を続ける
「私の気分転換に連れてきてくれたんでしょ?…罰なんて、うそつき」
夕日に濡れて橙に染まるごんべちゃんの姿が色っぽく見えて、息が詰まりそうだった
「ごんべちゃん」
「昨日幸村とのことで私が取り乱しちゃったから」
「………」
「ありがとね」
「ごんべちゃん…」
「わっ!」
ぎゅう、と腰を抱き締める
細くて折れてしまいそうだった
髪から香るごんべちゃんの甘い香りと柔らかい手のひらに、羽目をはずしてしまいそうだった
「…違うよ、これは罰だから」
「さ、猿飛さん」
「…恋人は逢瀬の最後に口づけするものだよね」
「え、あ、」
ごんべちゃんは、慌てたように顔を背けたが、それを許さないよう後頭部を押さえつけた
その空色の瞳に自我を忘れてしまう
ふっくらとした桜色の頬に唇を寄せた。
「ごんべ好きだよ」
「……徹底しますね」
「好きだよ」
仮想ではない想い
(悪いね旦那)
(渡したく、ないなあ)
2500HIT御礼
竜牙様コメントSUNX!
20131018