長編

□お願い事1つ
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『ごゆるりと…』

湯飲みを4つお盆から下ろして静静と去っていった女中さんの背中に頼むから行かないでくれと無意味に念を送ってみた


私の横には猿飛さんと、その横には真田さんが座っていて、幾分かそわそわしている

そして私の目の前には
デーン閣下も真っ青になるほどの負のオーラを放ち続けながらも満面の笑みを私に向け続ける慶次が胡座をかいて座っている













『ごんべちゃん。俺行ったよね?走り回ったら迷子になるよって』
『…はい』
『迷子になった上に忍の兄さんに拐われて?』
『…はい』
『挙げ句力を大解放し過ぎて四日間ずっと寝込んでたんだって?』
『てへっ!』
『ごんべちゃん?』
『すみませんでした』

またも額をすり付けて土下座をする私と慶次を交互に見ながら真田さんがあわあわしながら
『ほ、本当に前田殿にござるか…?』と呟いた声から、普段の慶次からは想像もつかないほど怒っているんだなというのが伝わって余計に怖い

『………庭園、見たよ。すごく荒れてた』
『うっ』

慶次の声が急にワントーン下がった
なよなよしい好青年だなという印象を勝手に持って本当にすいませんでした許してください…

『怪我しなかったかい?』
『…へ?』
『火傷とか感電、しなかったかい?』

恐る恐る顔を上げて慶次を見ると、慶次はとても心配そうに私のことをみつめていた

前回力を使ったときは大爆発って程でもなかったし、相手も盗賊だったから全力でぶっ放しても問題無かったけど

今回はまったく無害なお城の人間まで巻き込んでしまったかもしれない惨事だった

『…えっと、真田さん曰くお城の人は誰も怪我はしてなかったみたいだから…』
『そうじゃなくて!』

慶次の声が私に被さる
慶次は私に何を聞きたいんだろう

それがわからなくて口ごもると、慶次は私に一歩近づいた

私だけでなく真田さんも猿飛さんもビクリと肩を揺らした
また怒られる!と目を伏せたが、頭の上から怒鳴り声が降ってくることはなかった

『…この喉は…』

喉の包帯に触れる慶次
疑問と考察に回る瞳が答えを導き出すよりも先に、私は落ち着いた声で言葉を発した

『雷で砕けた石が飛んできちゃったの。そんなに深い傷じゃないから安心して』
『…本当かい?』
『嘘なんか付いてどうすんのよ』

私の言葉に猿飛さんは目をこれでもかというぐらいに見開いていた。忍って感情を露にしちゃいけないんじゃないっけ?

嘘をついたのは猿飛さんを守るためというよりかは面倒事を避けたかったからだ

昔の時代のことを完全に把握しているわけではないので、前田と真田がどのような関係にあるかまでを測りかねたからだ

事を荒げるのは得策ではないと思った

『…女の子が顔の近くを怪我して…!』

あ、でもダメだ無理っぽい。

猿飛さんに怒りが向かない分勝手な行動をして怪我した私にはめちゃくちゃ怒ってるこれ

『大丈夫だよ多分残らないからあははは…』
『ごんべちゃん笑い事じゃ…!』
『ま、前田殿、落ち着いてくだされ!』
『大体ね!俺は怒ってんだよ忍の兄さん!!』

慶次は私の喉から手を放して今度は猿飛さんに突っかかり始めた。もしかして私の稚拙な嘘がバレてしまったんだろうかと固唾を飲んだ

『あの時、ごんべちゃんは黒い着物着た男と一緒に北へ行ったって行ったじゃないか!!!』

『…………は?』
『いやー過ぎたことはもういいじゃん前田の旦那』
『良くないだろ!!俺奥州の方まで行くところだったんだぞ!!!』




『猿飛さん、慶次。どういうことか説明してもらえる?』


私の笑顔は多分相当ひきつっていたらしく、猿飛さんも慶次も肩をすぼめて小さく返事をした

改めて座り直すと、猿飛さんが話し始めた




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