短編

□出口の無い子宮
1ページ/1ページ

子宮。それは一番感情の伴わない場所
そして子を宿し育てる場所







私はただ呆然と。というよりはぼんやりと天井を見つめた。
わたしになんて声を掛けようかと戸惑う家臣たちの表情が見てとれる。こうなるのも無理はない

私はようやく孕んだ伊達家の跡取りを流産してしまったのだから。けれども私はひどく何も感じなかった
母親としてあるまじきことだとは思うが、私の中で未だ生まれぬ人が死のうと関係などなくて、ただ無表情な感情しか沸き上がらない自分に嘆くことさえわずらわしかった

壊れたものが弱かっただけのこと。元より孕んだとして到底この伊達家を背負ってたてるような人間になるはずもない

そう言い捨てたのは私ではなく、子の父である伊達軍の筆頭政宗さまだ
子を亡くした母への慰めではなく、それは純粋にそのままの意味合いでしかないことなぞ理解している。彼は私に対する愛なんてものは持ち合わせてはいないのだ

子を孕むことのできない正室のための、側室にすらなれない。私は伊達家の子宮

排卵する時期には毎晩。子を成すために愛の無い彼を受け入れる。苦痛でもなければ、そこに快楽なんてものが存在するはずもない

子を流したという話が正室の耳に届き、私の元へ走り寄った愛姫は、泣きそうに潤んだ瞳で私に抱きつき、ごめんなさい。どうしてあなたばかりが…と呟いた

彼女はどうしてこんなに慈愛に満ちているのだろう。とても理解しがたかった
私が子を宿せるならあなたはどれだけ救われただろうという言葉に、意味もなく眉間に皺を寄せた


数ある臓器の中で感情の伴わない赤子のゆりかご
それすら成し得なかった私は、ただの肉の袋でしかないのだ



出口の無い子宮
(他に何もできないから)
(壊れるまでここにいるよ)






20130923

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ