短編
□剥製にして
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内蔵を取り出して、なんかの防腐剤につけて、乾かせばほら、剥製のできあがりなんだよ
目の前のボロボロになった我の駒の一人は、薄く乾いた笑みを浮かべて、虚ろな瞳をころころと揺らして空を見つめている。光の灯らない黒曜石は、日輪の光に反射さえしない。こやつはもう、屍も同然
それなのに、なぜ我は動けぬ
『毛利さん、早く行きなよ』
見透かしたような、そんな表情が気にくわなかった。こやつが笑う度に、泣きはらし顔を歪める度に苛つきだけが蓄積されていた。どこのだれともしらぬ、得たいの知れぬ世界から来たと自負する女に、何故こうも固執するのだ
理解に、苦しむ
『駒は死ぬ。死ぬさ。』
緩やかに描く弧
その表情はいやに満足そうで、また意味のわからぬ苛立ちが我を襲う。貴様はこのままでは死ぬのだぞ。何故笑っていられるのだ
『でもさぁ、死んだら弔ってよね。これが最期のお願い。まぁ駒だから放置でもしかたないかもだけどね』
『弔わぬ』
はじめて発した声は掠れていた
錆びた味が喉にはりついて、これ以上話せば震えてしまいそうだ
なんて、くるしい
『貴様は死なぬ。故に弔わぬ』
そう振り絞るように告げると、別段驚きもしないその表情は、自嘲の色を滲ませて、吐き出すような小さな笑い声をあげる
『…ふっ』
『何がおかしい』
『あたしは死ぬ』
そう言い切る女の表情は、うすら笑いを張り付けていたけれども、無に近かった
饒舌だった女は、段々と歯切れの悪くなる自らの唇を撫でることさえ叶わずに、途切れ途切れに言葉を発した
『じゃあ、頼むよ』
剥製にして
(それを最後に女は動かなくなった)
(まるで、美しい木乃伊のように)
20130923