短編
□日ノ出日ノ入
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『うーむ。焼けそうだ』
『何がだ』
目の前の幼馴染みは、膝に肘をつけて両手で頬を押さえながら、厳島に沈み行く日輪を見つめながら意味不明なことを呟いていた
不本意ながらも理由を問うと、にこりと笑った
その表情に不覚にもどきりとしてしまう。ああくそ、この女はなぜこうも晴れやかに笑うのだ
『水のなかに沈んでいく太陽がね。とても熱くてね。水が蒸発してしまいそうだなって思ったの』
『馬鹿なことを』
『バカとは失礼だな。いいじゃん別に。』
『日輪を下らない話の種にされるのは不愉快だ』
『んー?某は今の元就の顔。愉快だよとても』
女の癖に自らを(某)と呼ぶ彼女は、けして男らしい容姿というわけではない
秀でて美しいわけでもない彼女に、なぜこうも惹かれてしまうのか
『元就と一緒にね』
『何だ』
『日の入り見れて嬉しいなって』
『ふん』
『だからね。日の出も一緒にね、みたいなぁ』
『……ふん』
『好きにしろ。でしょ?某は元就のことはなんでもわかってるんだからね』
おぉ日輪よ
(頬に熱が集まるのは)
(そなたが照らしているからだ)
20130923