きこえますか?

□06
1ページ/1ページ







んんー、良い天気。これぞ秋晴れ。
風は肌寒いけれど、カラッとお日様が照らしていて気持ちがいい。

調子に乗ってフレアワンピースなんて着てしまった。普段アースカラーの地味目な服ばかり好んで着るものだから、爽やかなグリーンベースのワンピースは気分が良い時にしかおろさない特別な服。

鼻歌なんかを歌いながら商店街を歩いていると、不意に誰かとぶつかった。何事かと思い視線をたぐると、私のフレアスカートは真っ黒な液体に使っていた。


「う、うわぁー!す、すみません!よそ見をしていて!大変だ!一緒に来てください!!」
「えっ、わっ!ちょっ…」


神経質そうなお兄さんの声が頭にキンキン響いて、なんとそのまま手を握られて引っ張られた。
何処かに連れて行こうとしているらしいが全くさっぱりこの人の行動の意味がわからずに混乱中の私に全力疾走を強要するなんてなんて何を考えてるんだろう。

しばらく走ると、この間十四松さんと一緒にお弁当をたべた河川敷の公園に着いた
一目散に向かった先は水道で、私のスカートはあって言う間に水浸しになった。

この季節、公園の水道なんて冷たくて仕方ないはずなのに、必死でスカートの裾を洗うお兄さんをまじまじと見ると、さっきまでの混乱が落ち着いてくる。


「あ…落ちましたね…はぁぁ良かった…」
「えっと…」
「…あっ!!!!わぁぁぁごめんなさい!!!!お、女の人のスカートの中に手を入れるなんて…!!!!」
「い、いやそれはいいんですよ。…あの、」
「いや、良くないでしょ!見ず知らずの男にスカート汚された上に手を突っ込まれるなんて、僕完全に変態じゃないですか!!!」
「それは言い方がよくないでしょう!!とにかく大丈夫ですってば!」

ショルダーバックに入っているハンカチをお兄さんに渡すと、お兄さんはびっくりしたようにえ!?と声を上げた。


「あかぎれしちゃいますよ。これを使ってください」
「いや、これは貴方がスカートに使った方が…」
「汚れは落ちたので大丈夫ですよ」
「でも…風邪を引いてしまうかも…」


随分気の弱そうな人だ。仕方ない。あんまりこう言う手段は取りたくないのだけれど。


「…じゃあお茶一杯ご馳走してください。」
「は?」
「近くに喫茶店があるのでそこで乾くまでご一緒してください。それでどうですか?」


お兄さんはみるみるうちに顔を真っ赤にして口ごもっていた。
えっ、えっ、あのあの…と恥ずかしそうにしている姿はいつかのサングラスのお兄さんを思い出させる。

あの時はお金を押し付けられて逃げられてしまったけど、二の足は踏まない。実際悪いのはこの人なんだろうけど、冷たい水で洗ってくれたのは事実なわけだしお礼も兼ねてと言う奴だ。
さっきの仕返しとばかりに手を握ってスタスタと歩き出すと、お兄さんはよくわからない奇声をあげて私にされるがままになっていた。


わたし、けっこうサドのケがあるかもしれない。
うつむきながらついてくるお兄さんをちょっといじめてやりたいと思ったのだ。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ