novel/しょーと

□初恋オリオン
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※U17合宿後という設定ですので
色々な部分が想像(妄想)です。ご注意を。







一目で気になったのは確か。
それが恋と名の付くものだとはまだ私には遠い世界の様で。










初恋オリオン











「えー?またぁ?」

「また今度!な!悪ぃ!」

目の前に居るブン太は教室に響くぐらい
大きく両手をパチンと合わせ大して悪いとも思ってなさそうに謝る。
これで何度目だ。

「今日こそ読めると思ったのに‥」

最近ハマった漫画がブン太の家にあると聞いて放課後遊びに来いよと誘われたのに。
まぁ、漫画ぐらい別に今日読めなくとも
死にはしないけどいくら私でもそう何度も断られると理由が気になる。

「さては彼女でもできたかっ!?」

ブン太の肩をポンと叩くと

「そんなんじゃねぇ!友達だけど、わざわざ遠くからきてくれたんだよ、仕方ないだろぃ。」

「ふーん、友達、ね。」

ニヤニヤする私の顔を見てブン太は眉間に皺を寄せる。

「男、だよ。気持ち悪ぃ顔してんじゃねーよ。」

「元からこういう顔ですー!」

「とにかく、今日は悪ぃ!じゃ!」

「ちょい待ち!」

急ぐブン太を呼び止めると彼の頭の上にハテナが浮かぶ。

「私も、行く。」

「‥マジかよぃ。」






その友達とやらを迎えに行く最中、ブン太はメールを打ちながらブツブツ呟く。

「へんな、やつも、ついて来る事に、なった、けど、シクヨロ!っと。」

「変な奴って何よ、変な奴って。」

「ユウしか居ないだろぃ。」

こうして気の置けない関係なのは私がブン太を好きだとかそういう事じゃない。
私が立海テニス部のマネージャーだったから、そして同じクラスの同じ列、ブン太が前の席、ただそれだけ。
そもそも私には皆の言う恋というものがよく分からない。
友達にはテニス部のマネージャーやってたら選り取り見取りだと言われた事もあったし確かに皆格好いいと思う。
でも私がマネージャーになったのはそんな邪な気持ちでやった訳じゃないしそんな気持ちがあるならマネージャーをやらせてももらえない。
あと、皆、私への扱いが酷い。特に幸村とか。幸村とか。



「よし、もう着いた頃だろぃ。」

最寄りの駅の広場をブン太がぐるりと見回す。割と人が居るこの駅前で例の友達と待ち合わせているのだとか。

「ん?あ!いたいた!おーい!キテレツ!」

キテ、レツ!!
確かにうちには仁王という名のコロ助が居るけど、ちょっと!どんな奴よ!

「丸井君、公共の場でそんな大きな声で呼ばないで下さい‥」

「へへっ!悪ぃ!」

久しぶり!なんて目の前で会話が繰り広げられている中で私はキテレツくんを見る。
肌が、ジャッカルほどじゃないけど日焼けかな?背も真田と一緒ぐらいだ。髪の毛、どうなってるのかな。
あ、眼鏡はハーフフレーム。シャツの胸の辺りに刺繍が入ってる‥

「‥丸井君、彼女は?」

ジロジロ見てるのがバレてしまった!

「さっきメールで言った変な奴!」

「え、あ、笹原ユウです。急にごめんなさい。よろしく。」

「俺は、木手永四郎といいます。」

こっちを見たキテレツくん、じゃない木手くんの黒曜石みたいな瞳がとても綺麗。

「木手くん、は、何処の人?」

自然と質問が口から零れだす。
イントネーションが何だか独特で。

「沖縄です。沖縄の比嘉中からやってきました。ゆたしく。」

ふっと笑って目線はすぐに私から外される。
なんだろう、この心臓の速さは。
分からなくて思わず制服のスカートの裾をギュッと握った。



とりあえず甘いものが食べたいというブン太。(いつもだけど)
おすすめだから、と半ば無理やりカフェへ連れて行かれた。

「比嘉中の皆は元気か?」

「えぇ、相変わらず、と言った所ですよ。立海の皆さんはどうです?」

木手くんは頼んだブラックコーヒーを口へと運ぶ。仕草がとても綺麗だ。見習わなきゃ。

「うちも、変わらずって感じだぜぃ、な?ユウ。」

「う、うん。」

「この間なんか、仁王が幸村くんにハロウィンのおばけの仮装してるのが俺だって言われて抱きついたらさぁ、ユウでさぁ、」

「そうそう、に、仁王ってば、人の事太めのおばけナリーとか、言うんだもん‥」

なんで木手くんに見られるとうまく話せないんだろう。
胸がつかえて、なんだか息苦しい。
あぁ、本当に太めのおばけだって思われたらどうしよう、言わなきゃ良かった!

「皆さん、仲が良いのですね。」

「まぁ、ユウはマネージャーだったしなぁ。」

「比嘉中にはマネージャーがいないので、羨ましいです。」

仲が良いと言われてなんだか複雑な気持ちがぐるぐる回る。
ブン太が言わなきゃ思わずただのマネージャーだと声を張りそうだった。
そしてすぐ比嘉中にマネージャーがいないという話にホッとする。

「私がマネージャーになれたらいいのに。」

口に出すつもりはなかったのにさっきから思考回路が機能してない私は思わずポツリと漏らした。

「はぁ?お前沖縄までわざわざマネージャーしに行くのかよぃ?」

「だ、よね。」

「気持ちだけ受け取っておきます。にふぇーでーびる。」

「‥さっきから木手くんが言ってるのって、沖縄の方言?」

「そうです。さっきのはよろしく、今のはありがとうという意味ですよ。」

「そうなんだ!もっとあるの!?」

どうしたんだよ急に、とブン太が横でケーキを頬張る。
木手くんの話すその沖縄の言葉がまるでどこかの外国の言葉みたいでキラキラと輝く。

「笹原さんは、うちの甲斐君みたいですね。」

「か、いくん?」

「キテレツ言えてんな!」

「え、えー?」

傑作だとげらげらと笑うブン太が私の肩をバシバシ叩く。誰だか分からないのにそんな似てるとごり押しされても。

「犬みたいな所が、似てる。」

クツクツと笑いながら木手くんは眼鏡を上げる。
笑った顔が見れたから、からかわれてるという事もなんだか気にならなくなってきた。
私は頭がおかしくなったみたいだ。

「それよりさぁ、キテレツ、今度の練習試合だけど、」

「えぇ、招待して頂けるということで、感謝します。」

「ま、まぁ、合宿んとき、色々世話んなったしなぁ。」

「この俺を欺いたんです。それぐらいは構わないでしょう。」

「根にもつなー。」

「冗談ですよ。丸井君の幸村君への思いは充分、理解できます。」

その合宿とやらで仲良くなった2人は楽しそうに会話を弾ませる。
男の子はいいなー。ライバル校だったのにすぐ打ち解けられるんだ。
私も合宿に行きたかったけど引退してるし動きはのろいし足手まといだからダメだって散々幸村に罵られたっけ。

「あと、可愛い後輩のためだしな!そうだろぃ?」

「そうですね。丸井君は高校でもテニスを?」

「あったり前だろぃ!」

「うち、立海大はエスカレーター式だからそのまま皆テニスやると思う!私、もマネージャー、絶対やるし‥」

すごいやる気をここで見せてしまった。

「キテレツもやるだろぃ?高校は?沖縄?お前ならこっちでも‥」

「テニスはもちろん続けますが、本土は俺には合わないですよ。」

木手くんの言葉が、胸を刺す。
そうだ、彼は遠い所に住んでいるんだ。
遠い、遠い、沖縄に住んでいるという事実を改めて思い知らされる。

さっきから嬉しくなったり悲しくなったりやっぱり私は頭がおかしくなったんだ。

「そっかぁ。またお前とダブルス組みたかったぜぃ?」

「俺は遠慮しますよ。」

どちらかともなく二人は笑い合う。
お腹いっぱいスイーツを口にしたブン太は満足そうにそろそろ行こうと私たちを促す。この後、うちの学校のテニスコートや施設を見学するのだとか。

お店から出るとキリッとした空気。少し肌寒い。

「やはり、本土は寒いですね。」

夏服のままの木手くんが言うには沖縄はこの季節でも25℃ぐらいあるらしい。

「あ!木手くん、ほらこっちに来なよ!」

時折吹く風が冷たいから、私が風避けになってあげようと思った途端腕をぐっと引っ張られた。

「危ないでしょうよ。車道側を歩くのは、君の役目じゃない。」

「あ‥‥ありがとう。」

「大丈夫だろぃ!キテレツ〜、そいつ車に引かれても死なねーから!」

「‥‥‥、」

引っ張られた腕が熱い。
頭の中に響き渡る心臓の音がうるさくて、ブン太の言う事に反応できない。

「おーい、ユウ!」

「え!あ!ごめん!」

聞いてんのかよとむくれたブン太の顔が近くてガムが鼻につきそう。

「ユウさー、もう帰れよぃ。」

「な、!なんで!」

「あとキテレツにコート案内して、俺んち行くから。邪魔。」

「邪魔って‥え〜‥じゃあ、木手くん、メアド教えて‥」

「なんで?」

なんでってブン太が言うな!関係ないじゃん。
ちらっと木手くんを見ればやれやれと言った顔で私たちを見る。

「‥知りたいから?」

「却下!行くぜぃ!キテレツ!」

「‥では失礼します。また、」

「ちょ、ちょっと!あ!ま、またね!木手くん!」


2人の背中を見つめる私の頭の中に響くブン太の声。





『なんで?』






その訳に気付くまであと少し。












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