novel/しょーと

□その壁を壊して
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その壁を壊して










夕暮れは嫌いだ。

闇が赤く染まった空をゆるゆると覆い尽くすその瞬間が、なんだか世界に独りぼっちにされたような気がするんだ。

漠然とした不安に駆られていると私の伸びた影にもう一つ大きな影が重なってきた。

「笹原さん、なんばしとっと?」

「・・・あ、千歳君、見ればわかるやろ、草むしり」

なぜ私が学校の花壇の草むしりをしているのかというと、別に緑化委員でもないし、ましてや好きでやっているわけでもない。

進路表を真っ白で提出し続けた罰ということにしておこう。

「千歳君はさ、、卒業したらどうすんの?」

千歳千里は雲みたいだ。

転入してきてから真面目に授業に出た所も見たことないし、屋上で寝てたり、なんかいまいち掴めない。

―――ここからは立ち入り禁止―――

そんな風に線引きをされている気がした。

「テニスば続けるたい」

「あー、うん。せやった。・・じゃなくて、」

言いかけてやめた。

どうせどこの後の質問を投げかけてもはぐらかされる。

「笹原さんは?」

それが分からないから草むしりをしているわけで。

しゃがむのに疲れた私はそろそろ良いだろうと自分勝手に立ち上がる。

「千歳君はえぇなぁ」

「質問の答えになってなかよ」

彼のくせっ毛が空に溶け込む。

やっぱり雲みたいだ。

「私、自分が、何したいか分からん」

どんな学校に行って、どんな生活を送って、どうしたいの、こうしたいの・・・

答えが出ないのに周りは都合いいことばかり押し付ける。

『とりあえず、高校に行ってから決めたらいい』

教師や親が何度も何度も繰り返す台詞はもう聞き飽きた。

カラフルだった私の世界は、この夕闇のようにゆっくり、ゆっくり色を失っていく。

「笹原さんは・・真面目やけん。」

カァっと耳まで熱くなるのが分かる。真面目と言われるのは普段ならほめ言葉だと思えるのになんだか千歳君に言われるとつまらない奴だと思われてるみたいだ。

「難しく、考えすぎたい。」

「・・・」

「たまには周りの言うことば、聞いても罰あたらん。」

涙で目の淵が滲む。

ああ、壁を作っていたのは私だ。

必要以上の意見を無視して、敷かれたレールから踏み外したくて、自分で何でも考えられる気がして、でも周りが恋しくて。

こんなに支えてくれる人が、見ていてくれる人が居るのに、目を瞑って―耳を塞いで―

目の前にいる千歳君が穏やかに笑うから冬から春になった時のようなホッとした暖かい気持ちが私の小さく開いた穴を埋めていく。

今、するするとゆっくり心に侵入してくる。

怖くないよ、こちらへおいでと。

その壁を壊して。








fin.









受験生の皆さん頑張って下さい!
読んで下さってありがとうございました!

千歳と離れ離れになるのが嫌だったからという裏設定があるのですが、なんか、やめました(笑)



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