「あーとべっ!かえろー!」 3年A組の教室のドアを勢いよく開けたらまだホームルーム中だった。 「悪いな、笹原、まだ跡部は帰せん」 意地悪なA組担任の林田先生はせっかく開けたドアに手をかける。 しまる瞬間に向こうから跡部がこっちを見て バーカ と声を出さずに私に言った。 嘘つきな恋 1 「ったく、お前のせいでとんだ恥かいちまったぜ」 「ごめーん、もう終わってるかと思って!」 手を合わせながら神様跡部様と謝っているとフッと笑って私の頭をポンポンと撫でた。 愛しさがぎゅうぅっと溢れると同時にズキズキと痛む。 私はこの痛みをかきけすかの様に繋いでいた手をぎゅっと握った。 私が跡部と初めて話したのは中学2年の始業式。 1年の時から色々噂は聞いていたけれど、2年で初めて同じクラスになった。 「おい、さっさと歩け。」 始業式の行われる体育館まで友達とお喋りしながら歩いていたら後ろから声をかけられた。いや、怒られた。 前とそんなに距離が空いているわけじゃないのにこう言われたもんだからカチンときて 「じゃあ、あんたが先行けばっ!」 と、跡部の足を踏んだ。言い訳させてもらえれば、故意ではない。でも後には引けなくて 「ってぇ!なにしやがんだ!」 「誰でも言いなりになるわけないじゃん!」 一色触発―― ぴりっとした空気の中 「ハッ!上等じゃねーの」 怒るかと思ったのに跡部が笑った。 それから何だか気に入ってもらえたみたいで、よく話すようになったんだっけな。 あとになってから跡部が 「お前みてーな女、会ったことねぇな」 なんて言うもんだからちょっとくすぐったくて、誇らしかった。(ん?違うか?) 先生からも『なんだ、お前らいいコンビだな』って誉められちゃうし(ん?やっぱ違うか?) 初めて気が合う男の子だったから、好きになるのも時間の問題だった。 気づけば跡部を目で追ってるし、授業中に彼が教科書を読む声に耳が熱くなったりもした。 とにかく私の2年生は跡部一色だった。 そんな風に毎日を過ごしてきた中で、ひとつ気づいたことがあった。 跡部には幼馴染がいて、その子は女の子で、んで、跡部はその子が好きで、でもその子に彼氏がいるというこの複雑な関係。 私と跡部が日直の仕事をしている時、彼は窓をずっと見つめてた。 その視線の先にはその女の子がいて、彼氏と手を繋いでる。 夕日が彼の綺麗な顔の輪郭をぼやかしていて、思わず見とれてしまった。 泣きそうな顔して見つめ続けるから彼が彼女を好きなんだってすぐに分かってしまった。 バカな跡部。可愛い跡部。 「ねぇ、跡部。私と付き合おうよ。」 もっとロマンチックに伝えたかったのに。 彼を見てたら自然と口に出していた。 「は・・?お前、何言って・・」 「いーじゃん。私が跡部を幸せにしてあげる。」 まっすぐまっすぐ言った言葉に偽りなんてなかったんだよ。 たとえ私たちの関係が嘘だったとしても。 |