short story
□ほっとけない、君も感情も
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ギルドん中は相変わらず騒がしい。
仕事行かねーのかよと思う程、人も多い。
そんな中、俺の目に留まるのはやっぱり今日もアカネだった。
ーほっとけない、君も感情もー
ほら、いくぞ…さん、にー、いち…
ードテっ!
『狽「ったーぃ!』
「やーっぱり…」
アカネはいつも期待を裏切らない。
床に障害物があったら100%コケる。今だって、遠くの俺からも確認できるでっかい木箱にまんまと足を引っ掛け…コケやがった。
「見えてねーのか?…不思議だなぁ」
ビール瓶が入った木箱はそれなりの大きさがあり、存在感は十分なはずなのに。どうしてそれに躓くのだろうか…全くもって理解不能だ。
周りの連中に手を借り立ち上がったアカネは“よくコケるなー”なんてからかわれてる。
そういや、昔から俺はこんな場面をよく見てきた気がする。
飲みもん・食いもんの類は必ずこぼすアカネ。
雨の日に限って新しい靴を履いてくるアカネ。
買い物に出ると必ず何かを買い忘れるアカネ。
思い返しゃあキリがない。
「なーんか…ほっとけないんだよな…」
気づくと目で追っている。最初はただ心配で気にかけていただけなのに。
今では何故だろう…どうせなら俺の前でコケろよとか、俺なら受け止めてやれたのにとか、そういう風に見てしまう自分がいる。
「…んだよ…俺、もしかしてアカネのことが……」
ふとよぎったある感情は一瞬で俺の頭を駆け巡る。
…いやいや待て待て、相手はあのアカネだぞ。いつもドジって、天然で、よく泣いて、からかわれて、…だけどめげない、何気に頑張り屋の、笑った顔がすげー可愛い…アカネ。
「…あー、くそっ」
感情っつーのはなんて面倒臭いんだろうな。一度気づいたら勝手にインプットされちまって自然と体を動かしはじめる。
アカネが好きなんだと自覚した今、俺が向かう先はただ1つ。
「アカネ」
『あ、グレイ〜』
「その荷物貸せ、持ってやるから」
『え?うん…ありがと』
「それと、今すぐそのほどけてる靴ヒモ結んどけ、危なすぎ」
『ヒモ?…あ、本当だ』
「で、あの5m先の段差で絶対コケるから気をつけろよ」
『う、ん…』
「そんで…」
『ちょっとグレイ…どうしたの?』
「どうしたって…気付いちまったんだよ、アカネをほっとけない理由に」
『?』
首を傾げて俺を見上げるアカネを目の前にして、改めて実感する。
俺のこの感情は本物で、もう決して揺るぐことはないのだろう。
「アカネ、お前はいっつも危なっかしいから…だから、これからは俺についてこい」
『うん…?』
「荷物も持ってやるし、アカネの行く道は確認してやる。コケねぇように手も繋いでやる」
『グレイ…?』
「だから傍に居ろよ。なっ」
『うん、なんかわかんないけど…私もグレイの傍に居たい』
ニコっと微笑むアカネの手を取り一緒に歩き出してみれば、もっと最初からこうしといてやれば良かったんだと思った。
これからは俺がついててやろう、
もうどうせほっとけないんだ、アカネの事も、この感情も。
『なんか嬉しいなぁ。手繋いで歩いてると恋人同士みたーい!』
「…」
『…グレイ〜?』
「“みたい”じゃねぇほうが良いんだけど」
『?』
「…お前俺以上に感情ニブいな…」
『??』
アカネもいつかは俺のように自分の感情に気付く時が来るだろう。それまでは急かすことなく、気長に待っててやろう。
Fin
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