short story

□距離感
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好意を寄せている女に、近付かれたら誰だって嬉しいもんさ。
だけど恋人として付き合う前は、ある程度の距離感ってもんが必要だと思うんだ。



ー距離感ー
 


それなりの節度っつーか、友達と恋人とのボーダーラインっつーか…そういうのは結構大事なわけで。とにかく、近付きすぎるのはどうかと…

「…どうかと思うんだが…」

『んふ?』

「んふ?じゃねーよ、離れろ」

『狽きゃっ』

アカネはいつもこうだ。時間も場所も特に気にせず、すぐに俺に抱き付いてくる。本人曰く癖なのらしいが、そんなん意識して直しゃあいいことだ。

「お前は毎日毎日抱き付きやがって!何回引き剥がされりゃ気が済むんだ」

『だってグレイ、ひんやりしてて気持ちいいんだもん』

「んなの氷枕でも抱いてろ!」 

『えぇ〜…グレイの方が手っ取り早いじゃん』

「知るかそんなことっ」

『うわー冷たいぃ…氷の魔導士だけに』

「うっせーよ」

ったく、何なんだホントに。
そりゃあ、アカネに惚れてる俺からすりゃあ、抱き付かれるなんてガッツポーズもんだ。だけどこうも毎日毎日繰り返されるとさすがに引き剥がすしかなくなるんだ。

うっかり手が伸びちまいそうになる。アカネの温度に擦り寄りたくなる。そんな自分に気付いてからはセーブするのに必死なんだよ…。

「なぁお前…他の奴らにも同じように抱き付いてないだろうな」

『他?…ううん、そういえばグレイだけだなぁ』

「ったく…」

『なんかねーグレイを見るといつも顔が火照ってくるの。だからクールダウンの為に抱き付いて…』

「は?それってどういう…」

『わっかんない。不思議だよねー』

「わかんないってお前…」

なんかサラっと物凄く重要なこと言わなかったか?何だよ俺を見ると顔が火照ってくるって…。それじゃあまるで…

「アカネ…お前、俺のこと好きなの?」

『…へ!?』

「だって顔が火照ってくるのって俺を見た時だけだろ?」

『う…ん、そうだけど…えぇ!?それってグレイが好きだからなの!?』

「いや、俺が聞きたいんだけど…」

『でもそう言われたらそんな気が…してきた、かも』

「…まじかよ…奇遇だな、俺も同じ気持ちだ」

『…っ!?』

もじもじといじらしく俯きながら、ようやく自分の気持ちに気づいたらしいアカネは、思わず吹き出しそうになる程に顔を真っ赤に染めていく。
あぁ、今こうやってる間にも、その顔は熱く火照りはじめているんだろうな。

「しょうがねーな、そういう事なら…」

『狽、ぎゃっ』

アカネの手を取り、思いっきり抱き締めると、その体は顔だけじゃなく全身が火照って赤くなってるのがわかる。

「気持ちいいかい?アカネさん」

『…ドキドキし過ぎてわかりません』

「くくっ」

俺を使ってクールダウン…なんてぬかした罰だ。
逆にもっともっと熱くさせてやる。
体も気持ちも時間も全部、俺への距離を縮めさせながら。

『グレイ…離してよぉ〜』

「本当に離してほしいのか?」

『うぅー…』

小さく首を横に振ったアカネを、さらに強く抱き締めて…そして耳元で呟いた。



「もう離せねぇよ、ばーか」






Fin


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