short story

□ボタン
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宴会の翌朝。ギルド内は荒れまくりだ。床で寝ていた多くの仲間達が二日酔いの頭と強張った背中を押さえながら次々と起床してくる。
いつものことだけど誰も改めようとしない、それが妖精の尻尾の良いところと悪いところだ。



ーボタンー



目覚めた者から次々と片づけを行う最中、ギルドの隅に立て掛けられていたテーブルの陰からまだ眠そうな目を擦りながらアカネがひょこっと出てきた。
しかしその姿はなんと大きなシャツを一枚、ワンピースのように着ている服装。靴もどこかへいったのか裸足のまま、ペタペタと歩いている。

『ぅんー…ねむ…む…』

「おーアカネ、そんなとこで寝…っ!?」

「顔洗ってから片付け手つ…ぶはっ!!!」

「アカネっ…!」

「おまっ、」

「なんちゅー格好っ…!」

『…んぅ?』

出て来たアカネの姿を見た男達が順々に顔を赤らめる。中にはぶっ倒れる者や鼻血を吹き出す者まで数名。
そんな光景に首を傾げながら、アカネはミラの居るカウンターへと向かった。

『ミラーぁ…あったかいの飲みたいー』

「はいはい、でもその前に…」

『ん?』

「シャツのボタン、もう少し上まで閉めなさい。おっぱい見えちゃうわよ?」

『ボタンー?…んぁ、本当だぁ』

2人の会話を聞いていた男達はさらに興奮が増しアカネを凝視している。高めの椅子に腰掛けながらまだフラフラしている手つきでボタンに手を掛けているアカネは何ともなまめかしく、同時に可愛らしい。

『ん、あれ?んー…』

寝ぼけている頭ではうまくいかないのか、何度も胸元のボタンをごそごそイジるアカネ。見かねたミラが“まったくー”と笑いながら、もたつくアカネに代わってボタンに手を伸ばす。

『ごめんねーミラぁ』

「もぅアカネったら。一番下から一個ずつ掛け違えてるわよ。だからうまくいかなかったのね」

『あーそうなんだぁ』

「お洋服くらいちゃんと着なさいー」

ミラとアカネのやりとりは後ろで見ている男達にとって、最高の目の保養になってるようだ。だけどそんな空気はアカネの一言によって一掃される。

『でも…私じゃなくてグレイが着させてくれたんだよー?』

「あら、よく見たら確かにグレイのシャツね」

『うん…ってか私、下着はどこにいったんだろぉ…』

「あらあら、グレイに聞いてきなさい」

『あーい…』

ボタンをとめてくれたミラにお礼を言ったアカネは、温かいお茶を飲み干してグレイの元へと歩いてく。

『グーレーイー…ってあれ?皆なにしてんの?』

「アカネ!助けてくれ」

アカネの目に飛び込んできたのは男達(主にマカオとワカバ中心)に取り囲まれ正座をしているグレイ。何ともばつの悪そうな顔をして助けを求めてくる。

『どうしたのぉ』

「うぉ!アカネちゃんまだその格好!?」

「アカネ!昨晩グレイと何かあったのか!?」

「お前等いつからそんな関係に!?」

アカネとグレイが答えるヒマも与えないほどに次々と質問は飛び交い、ついには勝手な憶測やでっち上げ情報で盛り上がる始末。

『みんな変なのぉ。ところでグレイ、私の下着は?』

「はぁ?知るか!つーかお前、俺以上のあの脱ぎ癖どうにかならねーのかよ!?」

『あー…また脱いでた?ごめんね、呑むとついつい…』

「脱いでた?じゃねーよ!せっかく気ぃ利かせてシャツ着せてやったのに、俺は濡れ衣着せられちまったじゃねーか!」

『おー、上手いこと言うね!』

「お前なぁ!」

やいやい言ってる男達の矛先が自分に戻ってくる前にどうにか逃げ出そうとしたグレイが、無実の罪で捕まるのはそれから数分後のことだった。


「アカネ!お前がちゃんと釈明しろー!」

『えへへ』





Fin


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