short story

□息も出来ない程
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夜も更けたこんな時間に、ドアを開けた理由はたった一つ。




ー息も出来ない程ー



『ラクサス!』

「よぉ」

玄関には愛しい恋人の姿。
少し疲れた様子だけども、どうやら機嫌は良いらしい。

『帰るのは明日になるって言ってなかった?』

「早く仕事が片付いたんだよ」

『さすがだねー』

一週間の仕事を終え、その足でここまで来たらしいラクサス。“S級のくせに大した事なかった”と文句とも取れる感想を述べる。

「つーかよぉ、いい加減中に入れろ」

私の返事を聞くこともなく…いや聞くつもりもなく、ラクサスは部屋へ上がり込む。
まるで自分の家かのように、慣れた手つきでコートを掛け、いつもの場所へ腰掛ける。

『なんか飲むー?』

「いらねぇ。それよりこっち来い」

『んー?』

ラクサスは座ったままで私を手招きしている。今日は本当に珍しいほど機嫌が良いらしい。
そんなせっかくの彼の機嫌を損なわないように、私は言われた通りにラクサスの隣へと座った。

『どうしたの?あ!お土産?』

「土産しか楽しみじゃねぇのかよ」

『そうじゃないけどー…』

「まぁいい。それよりもっと近くに来い」

『近くに?』

「イイ事始めようぜ」

『?』

腰を浮かせてラクサスに一歩近づく。するとどういう訳か視界がくるりと回り、目の前には肩越しに天井を背負うラクサスの姿。

「こんな簡単に押し倒されてんじゃねーよ」

『だって、不意打ちなんだもん…』

「無防備なのは俺の前でだけだろうな?」

『…そのつもりです』

私の返事に少しは満足したのか、ラクサスは口端をくっと上げて笑うとそのままの形で私の唇に重ねてきた。


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