short story

□抱き締めて
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どのくらい経っただろう。
溜まっていた疲労感が一気に襲う。
だが、一番ヤバいのはそこじゃない。

「……寒みぃ」

寒さには強い自信があったが、吹雪の雪山で氷の小屋ん中に居ればさすがに堪えるもんだ。
俺でさえこの有り様なのだから、アカネは相当キツいだろう。

「アカネ、大丈夫か?」

『うん…でもちょっと眠くなってきた…』

「まじか、やべーな」

眠いっつーのはまずいぞ。
どうにかしねぇと…

『グレ、イ…さ…むい』

「あぁ…そうだよな…どうすっかな…」

こういう時、魔法でどうにもできないのがもどかしい。
火を焚く術もねぇし、焚いたところで小屋が熱に耐えきれねぇ。

『グレイ…』

今にも目を瞑りそうなアカネ…。もう考えてる時間はねぇ。

「アカネ、こっちこい」

『ん…』

俺はアカネの返事を聞くこともなく、その小さな身体を自分の身体で包み込んだ。
その瞬間、想像以上に冷え切ったアカネの身体に驚いた。

「寒かったよな、わりぃ…」

『…グレ…ィ…あったか…い』

「あぁ、くっついていればあったけぇから…」

アカネの身体をあたためてやりたくて、背中をさすってやる。
だけどそれでもアカネの震えは止まらず、口数も少なくなってくる。

「アカネ、何か話しておこう。眠らねぇほうがいい」

『…うん』

「帰ったらたっぷり寝ような」

『うん、そうだね…』

話をしながら俺は自分のコートを開きアカネも一緒に包み込む。
するとアカネは俺の背中に腕を回し、胸元に顔を埋めてきた。

「あったかいか?」

『うん。気持ちいい』

そっと髪を梳くように撫でてやると、アカネはやっと笑顔を見せてくれた。
少しはあたたまってきたか?

『グレイ…』

「ん?」

『グレイのにおい落ち着く…』

「そうか?」

『うん。大好きだよ』

「…え?」




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