short story

□あのね、
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仕事を終えて、帰ってきたギルドの中。
いつものように笑顔で迎えてくれたアカネは、話があると言って俺をカウンター席へと導いた。




ーあのね、ー



『疲れてるのにごめんね』

「いや、大丈夫だけどよ。どーした?」

『ちょっと…話があって』


カランと音がしてカウンターを見ると、ミラちゃんが置いてくれたグラスがふたつ並んでいた。


「さんきゅー。ミラちゃん」

『ミラ、ありがとう』


ミラちゃんはニコッと微笑むと“ごゆっくり”と言って俺達から離れていった。

ミラちゃんからアカネへ視線を戻すと、少し俯き加減の横顔が気にかかった。


「何か良くない話なのか?」

『ううん、そうじゃないよ』


アカネと付き合って数年。
いつも太陽のように明るい笑顔の彼女ばかりを見てきた。
だからこんな風に俯かれちまうと、どうにも悪い想像をしてしまうもんだ。


「話あるんだろ?なんだ?」

『うん…あのね…』


どうしても言い出しにくいのか、今だに俺と視線を合わそうとさえしないアカネ。
ったく、こんなことは初めてだ。


「まじでどーした?何でも聞くから言えよ」

『うん…えっとね、その…』

「…」

『…』


騒がしいギルドの中。アカネの声を聞き逃さないよう神経を尖らせる。
だけどそれでも全く聞こえてこない次の言葉に、少し苛立ちや不安を覚える。


「アカネ…話しにくいことなのか?」

『そうじゃないけど…なんか…』

「なんだよ」

『グレイ、びっくりすると思うから…』

「?」


会話をしながらも、やはりアカネはこちらを向かない。
いつもはちゃんと目を見て話をするヤツなのに。なんなんだ、訳わかんねぇ。


「話があるっつったのはアカネだぞ?俺に言いたいことなんだろ?だったら遠慮なく言えよ」


アカネには悪いが少し強めの口調になってしまった。
こんな言い方をしたらビビっちまうかもしれねーよな。

一度落ち着こう。アカネのペースで話してくれればいいじゃないか。


「わりぃ…ゆっくりでいいからな」


そう言いながら、煙草に火をつけた。その時。


『っ!だめっ!』


パンっと俺の手は弾かれて、床に煙草は落ちてしまった。


「なにすんだっ」


まだ火のついてる煙草をすぐに凍らせて鎮火させるとアカネは“ごめん”と小さく呟いた。

ギルドにいた連中も、一体何事だとこちらを見ている。



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