short story

□その全てに
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たとえば、その揺れる髪が違う色だったとしても。

たとえば、お前のその声が違う声色だったとしても。

それでも俺はきっと、お前を好きになっていたんだろう。




ーその全てにー




『グレイ、ねぇグレイってば』

「んぅ…?」

『もう時間だよ、起きなきゃ』

「…あぁ…」


深い眠りから目を覚ますと、そこには愛しい彼女の姿。


『よく眠ってたね』

「そうみたいだ」


彼女のほうもまだ寝起きなのだろう。少しかすれた声で俺を呼び、眩しそうに目を細めている。


『気持ち良さそうに寝てたから、起こすのにためらっちゃった』


そう言って笑う彼女があまりにも可愛くて。
気付けばほぼ無意識に、自分の胸に抱き寄せていた。


『グレイ?』

「アカネ…」

『ん?』

「今日もお前のことが大好きみたいだ」


俺の言葉を聞いた後、胸のあたりで彼女が微笑むのがわかった。

なんて幸せな瞬間なんだろう。


『私も好きだよ』

「ん。」


細くてやわらかい腕が俺の背を包み、そっと力を込めて抱き締めてくる。

その一瞬でさらに俺の気持ちは奪われ、益々彼女が愛しくなっていく。


「やべー。」

『ん?』

「好きすぎる」

『でも“まだまだ”でいて』

「まだまだ?」

『そう。明日は今日よりもっと好きになってほしいから』


そうだな、と俺も思う。
この気持ちにきっと上限なんてないのだから。


「アカネこそ、毎日俺を好きになってくれよ?」

『うん、もちろんだよ』





たとえば、これからいくつ歳を重ねても。

たとえば、時に喧嘩をする日なんかがあっても。


それでも俺はアカネのことを
毎日好きになっていくのだろう。



アカネの全てに愛を感じて
俺の全てを捧げるのだろう。




「あ…忘れてた」

『?』

「おはよう、アカネ」

『ふふっ。おはよう、グレイ』






Fin



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