short story

□my brother
1ページ/4ページ



ツンツンと髪の毛を逆立てながら「ぐあぁー」と大きくあくびをするお兄ちゃん。


『…よし』

今日は寝起きが良いみたいだ。
やっとチャンスが訪れた。




ーmy brotherー



『あのー…ラクサスお兄ちゃん』

「ん?」

『今日って暇?』

「んなワケあるか。仕事だ」

『…だよね』

「なんだよ、アカネ?」


鏡を向いていたお兄ちゃんがこちらに振り返る。ジャラジャラとアクセを身に付けながら身支度は続けている。


『えっと…じゃあ帰ってきてからちょっと時間ない?』

「あぁ、それなら構わねぇが」

『じゃあギルドのカフェで待ってるね』

「おー。じゃ、行ってくる」

『いってらっしゃい』


バタンと勢いよく玄関の扉が閉まり、お兄ちゃんは仕事へと出かけて行った。
私もそろそろギルドへ行こう。
今日は早めに片づく仕事を選ばなきゃ。

妖精の尻尾に到着すると、いつもの席にグレイを見つけた。


『おはようグレイ』

「おはよーさん」

『あのね、今日…お兄ちゃんを…

「誘えたか」

『うん』

「わかった」


グレイは少し強張った表情をしたけど、すぐに笑顔で私を見つめた。


「心配すんなよ、大丈夫さ」

『うん』


グレイとは、実は数日前から付き合っている。元々幼なじみのようなもんだったし、周りの皆は“そうなるべくして、なった”と思っているらしい。

ただ、グレイは“自然の流れで…”というのがどうもイヤらしく、ちゃんとケジメをつけたいと言ってくれている。


「とりあえずじーさんには報告したけど…ラクサスがなぁ…」

『緊張する?』

「…ノーコメントだ」


おじいちゃんに挨拶した時、グレイはひどく緊張してた。
普段はすぐに脱ぐくせに、ジャケットなんて着ちゃってさ。
でもその日のことを思い出す度、私はとても幸せになる。
緊張で珍しく汗をかきながら、一つ一つ言葉を選び交際の報告をするグレイ。
それを聞いたおじいちゃんは頷きながら微笑んでいたよね。


『次はお兄ちゃんの番…』

「あぁ。アカネの家族は俺にとっても大事だから」


グレイは私の頭を撫でて、“頑張るぜ”とおどけたように笑った。


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ