short story

□そんなあなたに
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どうやら相手も魔導士らしい。
どうしよう、悔しいけど何もできない…


「つーか…嬢ちゃん可愛い顔してんな」

「人質に使う前に別のことに使ってやろうか」

「ははは、そりゃいーわ」



なんて歯がゆいのだろう。
こんな奴らに最低な目で見られた上、未だに身体の自由を取り戻せないなんて…

悔しい、悔しい…!


そうこうしている間に、1人の男が私の腕に触れようとする。


(いやだ!触らないで…!)




ーゴロゴロ…


(!?)

「へへ、大人しくしてな」

(この音…)




ーゴォォォォン!!バチバチ…バチ




「ぐあぁ…っ!」

「うっ…ぐっ」




眩しい光と激しく響く轟音。
間違いない、これは…



『…ラクサス』

「…怪我はねぇか?」




目の前にはラクサスの背中があり、そのさらに前には男達が倒れている。
そのおかげで私への魔力が途切れたようで、身体の自由を取り戻した。


「滅竜魔導士がなんだって…?」

「あ…いや…その…」

「てめぇらなんか覚えてもいねぇよ」

「いや…違うんだ…」

「お、俺らは…」

「やんのか、失せるかどっちかにしろ。次こいつに手ぇ出したらどうなるかわかってんだろうな?」

「…!!」

「ひぃ…!!」



後ろからは見えないが、きっと今ラクサスはすごい顔をしてるのだろう。

男達は震えながら一目散に逃げていった。




『あの…ラクサス』

「自分の身くらい自分で守れ」

『…うん』

「今回助けてやったのは特別だ。俺のせいで巻き込んじまったからな」

『…え?なんでラクサスのせい?』

「聞こえてた。あいつらの狙いは俺だったんだろ?」

『…』

「俺は全く覚えてねぇが…どっかで潰した闇ギルドの奴らかなんかだろ」



そこまで言うと、ラクサスはやっとこちらに振り返った。
一瞬、私の顔を見たけれど、すぐに目線を逸らされた。



『あのさ、ラクサス…』

「あ?」

『さっきの奴らが言ってた話ね、』

「もう忘れろ。二度とお前のとこには来ねぇだろうよ」

『そうじゃなくて…』

「?」

『あいつらの言ってた滅竜魔導士って……ナツのことみたいなの』

「…………ナ、ツ…?」





そう、確かに男達は滅竜魔導士と言ってたが…
所々で“炎”“鱗のマフラー”“一緒にいた精霊魔導士”などとナツだと連想させる言葉を並べていたのを聞き逃さなかった。



『あいつらの狙いは…きっとナツだったの』

「…」

『でも、ラクサスが来てくれて助かった。本当にありがとう』

「…」




ラクサスからの返事がない。
あれ?私、余計なこと言ったかな…

急に心配になり、私は逸らされているラクサスの顔を思い切って覗いてみた。



「ばっ…見んじゃねぇ…!」

『ラクサス…くっ…あははは』



ラクサスの顔は真っ赤だった。
自分の勘違いに気づき、きっと恥ずかしさが襲ってきたのだろう。



「わ、笑ってんじゃねぇよ、この新入りが!」

『ごめんっ…でもラクサス可愛い…』

「あ!?てめぇ調子乗んじゃねぇ!」

『あははは』



私が笑い続けると、ラクサスも私の頭を小突きながら少し笑った。
あぁ、この人の笑顔を見るのは初めてだ。



『ところで、ラクサスは何でここに?』

「たまたま通りかかった」

『ギルドもラクサスの家も反対方向じゃ…?』

「…」

『…』

「…っくそ!何なんだお前は、調子狂うな…。」

『?』

「通りかかったのは本当にたまたまだ。ただ、匂いが違ったから。」

『におい?あ、滅竜魔導士は鼻が良いもんね』

「お前の匂いに男の匂いが混じってた。だから…」




“気づいたら体が動いてた”
ラクサスはそう言って、軽く頭を掻いた。




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