short story

□確かなもの
1ページ/2ページ




仕事を終えてギルドの外へ。
家までの帰り道は、どうしてこんなに寂しいのだろう。


先ほどまで騒がしかったがゆえの反動か、それとも今日もグレイに会えなかったからなのか。





ー確かなものー






『グレイは今日も遅くなるかな…』



なんて独り言も言ってしまう。


付き合って長くなるグレイとは、最近仕事で一緒になる機会が少ない。

ギルド内でもトップクラスの実力である彼は、マスターから直々に仕事を依頼されることが増えたのだ。


『もちろん、グレイが認められるのは嬉しいけど…』



嬉しいけど、正直寂しいよ。
そんな事を言うと、グレイは絶対困るだろうから。
だから口が裂けても絶対言えない。



一応、夕食の材料は2人分買ったし
グレイが好きなお酒も買った。

もしかしたら家に来るかもしれないし…そんな淡い期待を抱きながら鍵のかかったドアを開けた。



『ふぅ、疲れた』

「お疲れさん」

『うん、お疲れさまー』

「腹へったなー」

『すぐ作るからちょっと待っ……っ!グ、グレイ!?』

「おー。お邪魔してまっす」




日常会話とは恐ろしい。
しばらく違和感にさえ気づかず、ふつうに返事をしていたのだから。


 
「なんかアカネんち来るの久々だな」

『いやその前に、あんたドコから入ってきたのよ!』



私は確かに鍵を開けて入ってきた。
なのになぜ彼は家の中に居るのだろう…



「俺は氷の造形魔導士だぜ?」

『ま、まさか…』

「鍵を作るくらい容易い」

『犯罪スレスレなんですけどー!』

「心配すんな、鍵を作ったのはエドラスと今日の二回だけだ」

『…』



“ふふん”と効果音が付きそうな表情のグレイ。そうか、これがどや顔というものか。



『まぁでも、来てくれてちょっと嬉しいかな』

「ちょっと?」

『…ううん、かなり。』

「うん、よろしい」



お互いに照れて笑いながら、グレイは私を抱きしめる。



「やっぱ飯は後回し」

『え?』

「アカネからいただくわ」

『…は!?ちょっ…待っ…』





さっきまでの寂しさは一瞬にして消え去って。

今ここにある、確かなものは
2人の愛と甘い熱。





『や、やっぱりご飯から…』

「却下。」









Fin



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ