short story

□誤魔化すなんてもうやめた
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『んぅ…いたたたっ……
…ううん、この位どうってこと…ない!』


うん、大した傷ではないよ。
この位は日常茶飯事じゃないか。
荷物が重く感じるのも、日差しが厳しく感じるのも、
きっとただ疲れているせいだ。


けれど、そんな疲れももうすぐ吹っ飛ぶ。

ほら、見えてきた。

私のおうち。“妖精の尻尾”








ー誤魔化すなんてもうやめたー







開きっぱなしの門をくぐると
うるさい声が四方から飛び交う。
お酒の香りと焼け焦げた匂いは、きっとカナとナツのせい。



「あらアカネ!おかえりなさい」

『ただいまミラ。今日も賑やかね』



私がカウンターに座ると同時に、ミラは飲み物を出してくれる。


「さっきまでは静かだったんだけど…ナツが来てからこんな状況よ」


にこっと笑うミラの目線の先には
一本の火柱が立っていた。


『ふふ、帰ってきたーって気分になれるわ』

「それなら幸いね。ところで、今回の仕事もうまくいったみたいね!先方からお礼状が届いてたわよ」

『うん、まぁ無難に終わらせてきたよ』



言いながら、ミラには見えないように少し痛む右腕をさすった。


確かに仕事は滞りなく終わらせてきた。
だけどどうにも、負傷してしまったこの腕が痛む度に自分の力不足を思い知るようで
なんだか後味が悪かった。

そんな事を思った瞬間、急にギルドの中の温度が下がった。



「もう1人うるさいのが帰ってきたわね」

『えぇ』





「ぐわぁーー!なんでこんな暑ぃんだよ!!てめーのせいだろっナツ!」

「なんだとグレイ!この変態野郎が!」

「あ?やんのかコラ」

「おう、かかってこいよ」




「ふふ、あの2人って仲が良いんだか何だかわかんないわね」

『火と氷だから相容れないんですかね』



ナツの胸ぐらを掴むグレイ。
“掴むとこがねぇ!”とキョドるナツ。




「グレイてめぇ、服着ろよなー!」

「服?…ぬぉ!いつの間にっ!」





その場にドッと笑いがおき、
さっきまで睨み合ってた2人も
大きな口を開けて笑ってる。



数日ぶりに見れたグレイの笑顔。
それだけで、帰って来れてよかったと思える。



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