short story-S.D.KYO-
□水音
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肌寒さで目を覚ます。まだ夜は明けきっていないらしい。
身動ぎながら布団を掛け直すと布擦れの音に狂が反応する。
ー水音ー
『ごめん、起こした?』
「いや」
珍しく眠気眼の狂は完全には覚醒してないようで。まるで子供みたいに私にすり寄る。
戸の向こうからは雨音。いつから降っていたのだろうか。そんな事を考えていると狂が口を開いた。
「雨か…」
『そうみたいね』
「どうりで冷える」
そう言うと私の布団をバサッとめくり中に潜り込んでくる。
『どうしたの?なんか甘えん坊ね』
「お前が寒そうだからあっためてやってんだよ」
『ふふ、それはありがとう』
笑われたのが障ったのか、少しむくれた顔をする狂。でもね、全然怖くないんだから。二人きりの時のあなたはいつだって愛しいのだもの。
『あったかいよ、狂』
「あぁ」
『今日は…このままずっとこうしてたいな』
「こんな天気だ、たまにはサボっちまえ」
『ふふ、お店の事?』
「あぁ」
紅い瞳が私を見つめる。優しく頬に手を添えて。脚と脚を絡ませて。
あぁ、こんな瞬間にはあなた以外何もいらなくなるじゃない。
『…休んじゃおうかな』
「そうしろ」
雨の日は狂も散歩に行かないし、
本当に一日中こうしているのも悪くない。
たまに、たまにだもん。こんな日があっても良いよね。
『じゃあ、もう一眠り…』
「…何言ってやがる」
『え?』
「俺様を起こしといて何もせずに寝るつもりか」
『…んっ』
塞がれた唇で必死に言葉を紡ごうとしても無意味で。上に被さってきた狂に毎度の事のように動きを封じられる。
『ん、』
「…一日中、可愛がってやる」
まるで降るように落ちてくる口付け。
それが全身にはり巡る。
雨の音に紛れて、二人の間に水音が響く。
Fin
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