short story-S.D.KYO-

□home
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真紅の瞳の奥には今までどれだけの景色が映ってきたのだろう。




ーhomeー




狂がゆやの元へ戻って早数ヶ月。
当たり前のように二人は同じ空間で同じ時を過ごしている。

ゆやにとってそれはなにより幸せなこと。
あの日から3年間、いつ彼が戻ってきても良いようにと住まいを探し、茶屋を営み、庭には二人が食すに十分の野菜の畑を耕した。

縁側には座布団を置き、灰入れまで備えてあった。

ずっと、ずっと待っていたのだ。
彼とここに住まう日を。

周りの者も皆それを理解し、時折ゆやに顔を見せに来ては優しく彼女を見守ってきた。






狂はというと。初めてこの家に足を踏み入れた時、何とも言えない不思議な感覚を味わっていた。
どこか懐かしいような、あたたかいような。不思議ではあるけど決して悪くない。

「お前、ここで一人か?」

『そうよ。昼は茶屋をやって、夜は奥の部屋で休むの』

「…」

狂は茶屋を通りすぎ、奥の居住スペースへと向かう。何か違和感をおぼえつつも、ゆやの話は続く。

『部屋は好きに使って良いわよ。どうせそうするつもりだろうし』

「…」

『あ!でもここの箪笥とあっちの戸棚は開けないでよね!』

「…」

『ちょっと狂、聞いてるの?』

「…お前…」

『ん?』

ゆやの話の最中、狂は自分の感じていた違和感の正体に気づいていた。

「…」

多いのだ、色々と。茶碗に湯飲み、番傘、座布団。少し開いていた押入れの中には布団が二組確認できる。
そして何より、煙草を吸わない筈のゆやの部屋に灰入れまでもが備えついている。


『狂?』

「一人住まいじゃねぇのか?」

『うん、昨日まではね』

「…」

にこっと微笑んだゆやを目にした狂は瞬時に全てを悟った。

そう。全ては…今日の日の為に、自分の為に、ゆやが用意してくれていた物なのだ。


「…世話かける…」

『ふふ、慣れてます』


家に足を踏み入れた時に感じていた懐かしさもあたたかさも、彼女の優しさからくるものだったのだろう。

『おかえりなさい。今日からここがあなたの家よ』

「…あぁ」


"ありがとう"はまだ照れ臭くて、狂はゆやの頭をぽんと撫でた。

ゆやはそれだけで十分に狂の気持ちが伝わり、二人で顔を見合わせる。








真紅の瞳の奥には今までたくさんの景色が映ってきたけれど
こんなにも愛しくあたたかなものは初めてだった。




Fin







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