覇出須高校

□怖い話
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ある日曜日。

「うへ〜暑いぃ……」

居間でマルスはうちわを片手に座りながら呟く。

まだ6月とはいえ、今日の暑さは尋常ではなかった。

マルスは『I'm a HERO!!』と書かれた変な半袖のTシャツに短パン、さらに前髪をゴムで縛って上げて、出来る限りの涼しい格好をしている。

「兄さーん、エアコンつけちゃダメー?」

台所から二人分の麦茶を持ってやって来るカイルに、マルスはうちわで自分を扇ぎながら尋ねる。

「エアコンは7月中旬まで禁止。そういう約束だっただろう」

カイルはそう答えながら、マルスの前に麦茶の入ったコップを置く。

カランと氷がぶつかる音が、どこか涼しげだ。

「俺のバイト代と親戚からの仕送りで何とか生計立てているんだから、出来るだけ節約しないと、今後が大変になる」

早くに両親を亡くして、高校生になってから二人暮らしを始めたマルスとカイル。

二人の生計を成り立たせているのは、カイルのバイト代と親戚からの仕送りだ。

あまり多くはないその金で生計を立てている以上、節約は必須だった。

「うぅ…そっかぁ……」

溜め息をついて、麦茶を一口飲むマルス。

「…ああ、扇風機ならいいけれど」

思い出したようにカイルが言う。

「扇風機、去年兄さんが壊しただろ?片付けの時に兄さん、派手に転んで見事にぶっ壊したじゃん」

「そういえば、そんなこともあったな……」

去年の秋頃、扇風機の片付けをしていた時のことだ。

扇風機を物置スペースに運んでいたカイルが一体何につまづいたのか盛大に転んだのだ。

気づけば扇風機は、見るも無惨な姿になっていた。

「あれから新しいの買ってないし……」

「春先にマルスの入学のための出費もあったから、今は扇風機を買う金すら惜しい……」

カイルの声からは、申し訳なさが伝わってくる。

「まあ、いいけどさ。しばらくはお前だけが頼りだよーうちわー」

マルスは特に気にすることもなく、うちわに話しかけている。

その時、ふとマルスのスマホの通知音が鳴った。

「誰だろ……」

マルスはスマホを確認する。

そして、メッセージアプリを開く。

「アベルからだ」

マルスはアベルからのメッセージを確認する。

ちなみに、アベルのアイコンはもちろんリンゴであった。

真っ赤なリンゴにでかでかと『アホ』と書かれている。

これはマルスのイタズラによって設定されたアイコンであったが、いちいち変更するのも面倒でアベルは放っておいている。

一方でマルスのは、『オレが勇者だ』と書かれた、これまた変なアイコンだ。

そして、アベルからのメッセージは
『今夜、心霊番組あるってさ』
という内容だった。

「へぇ、心霊番組かぁ。面白そう」

マルスはそう呟きながら、アベルへの返信を打ち込む。

『面白そう!ぜってー見る!』

と、返信する。

すると、すぐに既読の文字がつき、アベルから返事がくる。

『実況しない?通話でさ。その方が面白い』

マルスはまた返事を打ち込む。

『実況!面白そう!やるやる!』

さらにアベルから返事がくる。

『じゃあ、7時に電話かける。ちゃんと待機してろよ』

アベルからの返信に、マルスは返事を返す。

『りょーかい!』

それを最後に、一連のメッセージのやりとりが終わった。

「兄さん、今夜7時から心霊番組あるから、それ見る!」

マルスはスマホを置いて言う。

「心霊番組って、マルス大丈夫なのか?そういうの苦手だろう?」

実のところ、マルスはオバケや幽霊の類いが大の苦手であった。

「大丈夫大丈夫。アベルと実況しながら見るから、怖さ半減するって」

「ならいいんだが」

カイルはそう返しながら、台所の流しにコップを置きに行った。
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