SHORT STORY
□笑顔
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「思ったんだけどさぁ」
ふと、アベルが口を開く。
「ゼロスって、馬鹿にした時以外ちっとも笑わないじゃん。お前どんな顔して笑うわけ?」
「あぁ…それはアタシも思ったわ」
ルナも話に乗ってくる。
「ふん…別に笑う必要がないからな。どうでもいい時に能天気に笑うなど、馬鹿馬鹿しい」
相変わらずの冷めた答えを返すゼロス。
付き合ってられないとでも言うように、軽く溜め息をつく。
「……あんたって、本当につまんない男ねぇ…」
「そんなんじゃ、モテないな!」
馬鹿にしたような笑みを浮かべてアベルは言う。
「そもそもモテなさそうな貴様に言われる筋合いはない」
「う……」
アベルは痛いところを突かれた。
「そう言わないで、ほら、笑ってみなさいよ」
「………はぁ…」
嫌そうにルナから目を逸らすゼロス。
それから少しの間、沈黙が続く。
ルナがだんだん苛々してきたのか、爪先で床を叩く。
「あぁもう!何なのよ!この堅物!アタシの魔法で無理矢理にでも、あんたの嫌いなニッコリ笑顔にしてやるわ!」
ルナはいきり立ってそう言い、魔力を集中させ始めている。
さすがのゼロスも、それだけは勘弁したいところだ。
(…面倒だが…やらなければ、ルナにもっと酷い笑顔にさせられそうだな…)
意を決したゼロス。
「わかった。笑えばいいのだろう?」
「そうよ。最初から素直にそうしなさいよねぇ」
「ふん…」
ルナとアベルが興味津々で、ゼロスを見つめる。
そして、ゼロスはゆっくりと口角を上げる。
ゼロスは初めて二人に笑顔を見せた。