SHORT STORY

□牛乳の話
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 それは、ハデスの居城の一室での出来事だった。

「んくんく……っぷはぁ〜!」

アベルは、ビンいっぱいに入った牛乳を飲み干す。

口のまわりにはビンの飲み口についた牛乳で白く丸い跡がついている。
彼はそれを行儀悪く、舌でぺろっと舐めとった。

「リンゴちゃんて、いっつも牛乳飲んでるけれど、何か意味でもあるの?」

それを見ていたルナが尋ねる。

「リンゴって言うな! そんなのもちろん、大きくなるためだよ!」

「背ちっちゃいものねぇ〜」

ルナはそう言って、アベルの頭を「いい子いい子」とでも言うように撫でる。

「頭を撫でるなぁーっ! ボクはチビなんかじゃない!」

アベルはルナの手を振り払う。

「チビだろうが」

傍らで二人のやりとりを見ていたゼロスが、さりげなく呟く。

「ちっがーうっ!てか、いつからいたんだよお前!」

「あんた神出鬼没だから怖いのよぉ」

アベルとルナは、ゼロスの登場に若干引いている。

「いつって…先程からずっとだが?少なくとも、ヘタレリンゴが牛乳を飲む前からな」

「「怖っ!」」

口を揃えて言うアベルとルナ。

「………」

ゼロスは一瞬だけ、どこか寂しそうな顔をした。

「ていうか、ヘタレリンゴってなんだ!?グレートアップさせんな!」

「俺は事実を伝えただけだが」

「じゃあチビってのも事実ね!」

アベルの反応を面白がるようにゼロスとルナが言う。

「くっそぉ〜…」

アベルは悔しそうな表情を浮かべる。

「いいか!そもそもチビってのは、あの勇者御一行のとこにいる女みたいな奴を言うんだよ!」

ゼロスとルナに向かってビシィッと指をさして言う。

「あいつはボクよりも小さい!だから、真のチビとはあいつのことだ!だからボクはチビじゃない!」

エッヘンと胸を張るアベル。

「真のって…自分がチビってのは認めてるのね」

「なっ!違うってば!」

「だいたいねぇ…女の子と比べるってどうなのよぉ?男の方が成長するものなんだしぃ」

「う…」

アベルは立場が悪くなる。

「まあ、あの子は女の子でも小さい部類に入るけど、それと比べてもあんまり変わりのないあんたは、やっぱりチビね」

自信満々に言ったことをあっさりとはねのけられてしまう。

「馬鹿にしやがってぇ…!今に見てろ!ボクは毎日牛乳飲んでるんだ!すぐにお前たちなんて抜いてやる!」

「「頑張って」」

棒読みで返したゼロスとルナ。

そこへカイルが部屋に入ってきた。
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