DESTINYー絆の紡ぐ物語ー

□第3章 氷の刃
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 ドラゴン退治を終えてオスクルの洞窟を出た後、三人はすぐにルイムの町に戻った。

町に帰り着いた三人にまず向けられたのは、人々の驚きの視線だった。
その理由はと言えば、三人が手にしていたドラゴンの牙だ。

 ドラゴンの牙は、ドラゴン自身の強さもあって非常に貴重な素材であるため、驚かれるのも無理は無い。
それに加えて、洞窟から出てきたドラゴンの姿を見た事があるらしい町人の誰かが「あれは交易路に出てくる化け物の牙だ」と声を上げたのだ。

その途端に、町中は騒ぎになった。
町の手練れですら倒せなかった魔物を、まだ幼さの残る少年達が倒したという事もあって騒ぎはより一層大きくなる。

 しばらくすると、その騒ぎを聞きつけた町長リークが何事かという顔で、三人が足止めされている町の入り口まで小走りでやって来た。
彼の後ろからは、マルス達を小馬鹿にしていた使用人の女が同じように小走りでついてきている。

町の入り口に辿り着いたリークは、無事な姿でドラゴンの牙を携えた三人を見つけた瞬間、輝くような笑顔を浮かべた。
町を悩ませていた魔物が倒された事は無論嬉しかったのだが、それ以上に彼にとっては三人の無事が嬉しかった。
使用人の女も、彼の後ろでうっすらと安堵の涙を目に浮かべているのが見える。

「ほ、本当に、あの魔物を倒してくれたのかい……?」

三人の肩に順に触れて夢では無い事を確かめながらリークは尋ねる。
すると、倒したのはマルスだと言うように、アイクは彼を前に出した。

「あ、いや……オレだけじゃ無くって、途中で会った友達のおかげなんです」

マルスは自分一人の手柄にするのは悪いと思い、詳しくは語らなかったが、アベルのおかげである事もリークに伝えた。

「ほう、その友達はどこに?」

「あいつはもう帰りました。一緒なら良かったんですけれど、あんまり人といるのが好きじゃないみたいで」

アベルとは途中で別れてしまい、ここに連れて来られなかった事を謝ると、リークは仕方ないと言うように何度か頷いてみせた。
そして、もう一度三人の無事を喜ぶような表情を浮かべると、後ろにいる町民や他国の商人達の方を振り返って声を上げる。

「みんな、彼らが洞窟の魔物を倒してくれました! これで、今まで通りの生活に戻れます!」

リークが声高に三人を紹介し、彼らのおかげで他地方への道が解放され、ようやく以前の生活に戻れる事を皆に知らせた。
途端にあちこちから歓声と賞賛の声が上がり、マルスは誇らしくも、慣れない事への恥ずかしさで頬が熱くなるのを感じる。

傍らのアイクとパルは結果としては魔物退治に手を貸す事は出来なかったが、これだけ多くの人にマルスが褒められていると思うと、まるで自分の事のように嬉しかった。



 そして日が暮れ、その夜はささやかながら、大道の復活と三人の無事を祝う宴が開かれた。
町の広場に皆が集まり、町人達が持ち寄った手料理に囲まれながら、誰もが笑顔を浮かべている。
陽気に歌ったり踊ったりする者もいれば、酒を酌み交わす者、手料理に舌鼓を打つ者もいた。

三人が訪れた当初に漂っていた、どこかどんよりとした雰囲気はもうどこにも無く、夜の闇を照らす満月の明かりよりもずっと明るい雰囲気が町を包み込んでいた。

慣れない事に三人は戸惑っていたものの、一時間、二時間と経っていくうちにすっかり町の人々とも打ち解け、宴を楽しんだ。
夜が更けても尚、町には賑やかな声が響いていた。



 その翌朝、三人は旅立つ準備を終え、昨晩の宴の礼とルイムの町を発つ事を伝えるため町長リークのもとを訪れていた。

「君達には本当に感謝しているよ。何とお礼を言ったらいいか……」

嬉しげな表情で、昨晩から数えて何度目かの感謝の言葉をリークが言う。

「おじさん、昨日からそればっかり。お礼なら、昨日あんなにしてもらったんだから大丈夫です」

何度も礼を言ってくるリークに、マルスは明るく笑う。
リークの方は彼にそう言われて、昨日から何度も礼を言っている事をようやく自覚して恥ずかしげに頭を掻いたが、それでもまだ言い足りなさげな顔をしていた。

「むしろオレ達の方こそ、ありがとうございます。宴にも参加させてもらっちゃって」

昨晩の宴で多くの人々に感謝され、褒め称えられた事を思い出して照れ臭く感じながら、今度はマルスがリークに礼を言う。
彼の横でパルとアイクもそれぞれリークに礼を述べた。

「いやいや、あれくらいは当然だよ。それだけの事をしてもらったんだから」

三人からの感謝の言葉にリークは首を横に振りながらそう返してから、少し真面目な顔つきになって三人の顔を順番に見た。
途端に冷静さを持った瞳で見つめられた三人は、彼同様に真面目な顔つきになる。

「……君達は、三人だけで旅をしているんだったね」

確認するように尋ねてくるリークに、マルスは大きく頷く。

「君達の目指す場所がどこなのかは分からないけれど、子ども三人だけでの旅だ。これからの旅路は、きっと君達の想像以上に辛く険しいものになるだろう。それは間違いない」

そう言うリークの口調や表情からは、マルス達を心底心配してくれている事が伝わってくる。
三人の目を順に見ながらリークは続け、三人は彼の言葉に相づちを打ちながら真剣に話を聞いていた。

「でも、君達なら大丈夫だと信じている。君達の旅の無事を、このルイムの町で祈っているよ。勿論、僕だけでなく町のみんながね」

リークの激励の言葉と共に、いつの間にか集まってきていたルイムの町の人々が姿を見せた。
人々は彼の激励の言葉に大きく頷いて、自分達も応援していると表情で訴えている。

三人はリークを始めとする多くの人々が自分達の旅の無事を祈ってくれている事を心の底から嬉しく感じた。
くすぐったい嬉しさを感じながら、三人は声を揃えてリークと町の人々に礼を言った。

「旅が無事に終わったら、報せに来ます。だからその時まで、さようなら」

マルスは名残惜しそうな顔つきで、リークと町の人々に別れを告げる。
アイクとパルもそれに続いた。

三人が歩き出すと、後ろからいくつもの感謝も言葉が聞こえてくる。
旅に出て初めて訪れた町で感じた人々の優しさは、これから遠い道のりを歩んでいく三人の背中を押してくれているようだった。
人々の声援を背中に感じながら、また三人の旅が始まった。
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