黄金色に輝く‐現在篇‐

□第玖話
2ページ/2ページ

私は禽夜様と部屋に戻ったのだが遂に禽夜様は我慢できず、「外に出る」と言い出した
廊下へと出た禽夜様を説得するために後を追い、廊下に出ると近藤さんが駆け寄ってきた


「ちょっとォ、禽夜様
駄目だっつーの!!」

「うるさい!もう引き籠り生活はウンザリだ」

「ですが禽夜様!お外は危険です
どうか、もう少しご辛抱をお願いできませんか?」

「そうですよ。命狙われてんですよ
わかってんですか?」

「貴様らのような猿に護ってもらっても何も変わらんわ!!
それに今はこの女が俺の警護についておるんだ
貴様らは要らぬ!!」


禽夜様の言葉に近藤さんはカチンときたのか少し声を荒げた


「猿は猿でも俺達ゃ、武士道っつー鋼の魂もった猿だ!!
なめてもらっちゃ困る!!」

「なにを!!なりあがりの芋侍の分際で!!
とにかく警護はこの女だけでいい!!」

禽夜様はグイッと私の腕を引っ張るとボソッと何か呟いた
ラクダがなんでしょうか?
すると私の視界に何か光るものが見えた
それがなんなのかは先に近藤さんが気づいたのか声を上げた
そしてその次に聞こえてきたのは銃声音だった
いきなりの音に反応できなかった私に近藤さんとぶつかる衝動と頬に痛みが走るのを感じた


「こ、近藤さん!!」


私は頬の痛みで我に返り、倒れこんでくる近藤さんの身体を支えた


「近藤さん!!しっかり!!」

「局長ォォ!!」


駆け寄ってきた総悟君と隊士達は私たちを囲み、反応がない近藤さんに必死に声をかけた
その光景を禽夜様はニヤリとしながら見下ろした


「フン。猿でも盾代わりにはなったようだな
だが女は傷物になったな
傷物の女などもう要らぬわ」


それを聞いた総悟君は瞬時に鞘から刀を抜こうとするが兄上に止められた


「止めとけ。瞳孔開いてんぞ」


だが兄上が言った直後にパンっと乾いた音が耳に響いた
私が禽夜様の頬を殴った音だ


「な、何をする!このアマ!!
自分に傷がついたぐらいで…」

違います!!


シンとする中、私の怒りの声がよく聞こえた


「私は自分のことで怒ったんじゃありません!!
私は…私は…!!
私の大切な人をそんなひどい扱いをされたことに怒っているんです!!」


普段、穏やかな蘭が大声で怒る姿に土方や沖田、隊士達は目を丸くして見つめた
そして皆が黙り込んだ静寂の中、私の荒くなった声だけが聞こえ、私は殴ってしまったことに気づきいた


「すみ、ません…」










私が禽夜様に殴ったことを謝った後、銃で撃たれた近藤さんは部屋へと運ばれ、私たちは広い部屋へと移動した


「ホシは‟廻天堂″と呼ばれる攘夷派浪士集団
桂達とは別の組織ですが負けず劣らず過激な連中です」


銃を撃った犯人の調査をした退先輩は報告をし、それを兄上はタバコを持ちながら「そーか」と答えた


「今回のことは俺の責任だ
指揮系統から配置まですべての面で甘かった
もっかい仕切り直しだ」


この騒動に兄上は自分の責任だと言ったことが隊士達は納得できず、代表として原田隊長が発言した


「あのガマが言ったこと、聞いたかよ!
あんな事言われてまだ奴を護るってのか?!
野郎は俺達のことをゴミみてーにしか思っちゃいねー
自分をかばった近藤さんに何も感じちゃいねーんだ
しかも気に入っていた蘭さんが怪我をした瞬間、捨てやがった」

発言した原田隊長に私は絆創膏が貼られた頬を撫でながら俯いた
そして原田隊長に便乗して退先輩は白い粉が入った袋を兄上に見せた


「副長。勝手ですがこの屋敷、色々調べてみました
倉庫からどっさりとこいつが…」


その白い粉は麻薬だった


「もう間違いなく奴ァ、クロです
こんな奴を護れなんざ、俺達のいる幕府ってのは一体どうなって…」

「フン。何を今さら」


退先輩の発言に兄上はおかしそうに笑った


「今の幕府は俺達のためになんて機能してねェ
んなこたァ、とっくにわかってたことじゃねーか」


兄上は言いながら襖をあけ、隊士達は黙って兄上を見つめながら耳を傾けた

「てめーらの剣は何のためにある?
幕府を護るためか?将軍護るためか?
俺は違う

覚えてるか

あの頃、学もねェ、居場所もねェ
剣しか能のないゴロツキの俺達をきったねー芋道場に迎え入れてくれたのは誰か

廃刀令で剣を失い、道場さえも宇品ながられそでも俺達を見捨てなかったのは誰か

失くした剣をもう一度取り戻してくれたのは誰か

そして…」


その時、兄上の瞳は確かに私へと向いていた


「俺の小さい頃から大切な奴を優しく接してくれたのは誰か」


兄上の最後の問いかけにフッと頭に出てきたあの笑顔に私はばっと顔を上げた
昔、兄上以外を警戒していた私を豪快に笑いながら大きな手で頭を撫でてくれたあの笑顔に

「…幕府でも将軍でもねェ
俺の大将はあの頃からこいつだけだよ
大将が護るって言ったんなら仕方ねェ
俺ァ、そいつがどんな奴だろーが護るだけだよ
気にくわねーってんなら帰れ
俺ァ止めねーよ」


そう言うと兄上は外へと出ていった
私はギュッと拳を握って兄上を追うために立ち上がり、急いで外へと出た
そして少し先にいる兄上の後ろ姿を私は見つめながら呼び止めた


「私も兄上と同じ、あの頃からあの人は大将で大切な方です!!
…なのに、私は…
幕府の偉い方に手を出してしまった私のせいであの方の大切な真選組が…」


私は自分の責任を重く感じ、胸部あたりの隊服をギュッと握った
すると私の頭にポンッと何かあたったのを感じた
前を見るとそこには優しく微笑む兄上の姿があった


「そんな顔すんじゃねーよ
でないと大将が泣いちまうぜ?」


私とは違う兄上の蒼い瞳を見つていると心のどこかで何かが溢れそうになり、目頭が熱くなった


「すみません…すみませんでした」

「謝んな。お前が思ってるより真選組はこんなことで簡単になくなったりなんかしねーよ
でもまぁ、反省文は書いてもらわねぇとな」


俯く私の頭を兄上が撫でながら歩いているとピタっと兄上の足が止まった
私はどうしたのだろうと思い、兄上の見ている方へと辿るとそこには禽夜様が十字架に掲げられていた
そして側では焚火をしている総悟君が居た


「そ、総悟君?!」

「何してんのォォォォ!!お前!!」

「大丈夫大丈夫
死んでませんぜ」


驚く私と兄上に総悟君はケロッと答えた


「要は護ればいいんでしょ?
これで敵、おびき出してパパッとと一掃
攻めの護りでさァ」


でもなぜ禽夜様の真下に焚火?
すると禽夜様は気が付いたらしく総悟君の行動にキレたが薪を口に突っ込まれてしまった


「土方さん。俺もアンタと同じでさァ」


総悟君は未だに薪を突っ込ませながら話した


「早い話、ここにいるのは近藤さんが好きだからでしてねぇ
でも何分、あの人ァ、人が良すぎらァ
他人のイイところ見つけるのは得意だが悪いところを見ようとしねェ

俺や土方さんみてーな性悪がいて
そんでみんなの姐さんみてーな蘭がいて
それで丁度いいんですよ。真選組は」


その時、総悟君の口元は微かに緩んでいた
兄上はそんな総悟君の姿を見て嬉しそうに見えた気がする
そんな私も総悟君の言葉にこそばゆくて表情が緩んだ


「あーなんだか今夜は冷え込むな…
薪をもっと焚け、総悟」

「はいよっ!!」


焚火に薪が追加されたことで火は大きく燃え、その熱さに禽夜様は詰まった口から叫び声が出た
流石に禽夜様がかわいそうです…
もがく禽夜様は何かを言ってるようだがわからず、見つめていると禽夜様の頬に何かが掠った


「天誅ぅぅぅ!!奸賊めェェ!!成敗に参った!!」


聞こえてきたほうへ向くと門をくぐって入ってくる攘夷志士の集団がいた
その集団に頭らしき男はおでこに「天誅」と書かれた鉢巻が巻かれていた


「どけェ、幕府の犬ども
貴様らが如き、にわか侍が真の侍に勝てると思うてか
そこの女もだ
所詮、女が男には勝てぬわ」


私たちはそれぞれ自分の刀を鞘から抜いた


「おいでなすった」

「派手にいくとしよーや」

「女だからってなめていたら痛い目にあいますよ」


すると後ろからなぜかあの人の声が聞こえた


「まったく喧嘩っ早い奴等よ」


振り向くと復活した近藤さんと隊士達がいた
そして近藤さんは刀を前へと指した


「トシと総悟と蘭ちゃんに遅れをとるな!!
バカエロガエルを護れェェェェ!!」


近藤さんの合図に隊士達は走り出した
そしてそのいつもの近藤さんの姿に私たちはフッと笑い、兄上の掛け声と共に走った


その後、見事、攘夷志士を打ち倒して私たちの成果は新聞に掲載された
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ