薄桜鬼‐鬼姫奇譚‐

□序章
2ページ/8ページ


その夜は月が美しく輝く静かな夜だった。

朝方から降り続いていた雪が少し弱くなりその美しさを一層際立たせていた。

窓から見下ろす里には色鮮やかな灯りがともり人々が行き交っていた。

隣に座る兄もその美しさに目を細めて微笑んでいた。

まだ、幼かった少女も今日で13歳になる。
ここでの元服の年齢になったのだ。

もう少しで元服の儀がとり行われる。

少女は静かに立ち上がり兄に微笑むと控えの間に移動した。

体を清め正装し化粧を施す。

正装は白地に裾と袖が黒から桜色に変わるものだ。

儀がとり行われる広間に向かい静かに扉の前に立つ。

そして扉が開いた瞬間、少女は一歩を踏み出した。











元服の儀を終えて、少女は先祖代々伝わる刀を眺めていた。

本来なら兄が受け取るべきものだが残念なことに、兄には剣術の才が皆無だった。
その代わりに頭がよく問題ごとなどもすぐに解決してしまうのだ。

その一方少女には剣術の才があり、なかなかの腕だった。
頭も良いが少女には当主を支え守る任が与えられるのだ。

期待に胸をふくらませ少女は月を見上げた。


だが、そんな日常が突然終焉を迎えたのだった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ