生贄の花嫁U

□冷たく暗い部屋で
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どれ程の時が流れただろう。

もう、時間の感覚なんてものはない。

体の感覚ですら消えそうだ。

冷たく暗いだけの部屋。

私をここに留めるのは、重たい手錠と足枷。

自由とはなんだったんだろう?

青空って?学校ってなあに?

何もない、虚無。

ここが私のセカイ。

私を幸せにするセカイ。

酷い人も、事も、何もない。

縛られるのは、もう苦痛じゃない。

むしろこれは私を幸福にするために必要なモノ。

ギィ…。という重たい音によって、この部屋のドアが開いたことを知る。

私はニッコリと微笑んで、私をシアワセにしてくれる人を見つめるの。

「おかえり…なさい…。」

聞こえているかは分からないけれど、スースーと掠れた声で、懸命に語りかける。

すると彼は笑いながら、私の髪の毛を撫でるのだ。

さらさらと。

時には痛くされながら、でもそれを生きている実感として感じながら。

私は彼に体を預ける。

彼の手が私の首に触れる。

少しだけ体を強ばらせたものの、直ぐに力を抜く。

すると彼は満足げに私の首に首輪を着けた。

可愛らしいピンク色の首輪。

真ん中には鈴がついていて、動くたびにチリンと乾いた音がなる。

首輪を着けると、彼は私の手錠と足枷をはずした。

もしかして、捨てられてしまうのだろうか?

私の頭を支配するのは、恐怖。
それだけ。

捨てないで。
捨てられたくない。

それだけが脳内を駆け巡る。

しかし彼は私の手を取り、膝の上に乗せると抱き締めた。

捨てられないと分かった途端に、私はまるで本物の猫のように彼にすりよる。

だって私は彼のお人形。
だって私は彼のペット。

彼の喜びが私の喜びであり、私の存在理由とは、それだけなの。

いつしかゴミのように捨てられる日が来るまで。

私は彼の為だけに生き続けるの。

だって、それが私のシアワセだから。
彼の望む、オワリだから。

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