生贄の花嫁U

□切り裂かれて
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「ねぇ、ユイさん。」

「なに?アズサくん。」

珍しくアズサくんに引き留められる。

「ユイさんに…見せたい物があるんだ…ねぇ、こっちきて…?」

「見せたいもの?」

「うん…そう。」

「分かった。」

アズサくんが何かを見せたいなんて珍しいし…気になる。

いつもよりも楽しげに廊下を進むアズサくんの後に着いていくと、たどり着いたのはアズサくんの部屋。

このなかに見せたい物があるのかな?

「こっち…きて…?」

「う、うん。」

アズサくんの部屋…か。

そういえば入ったことなかったな…。

「それで…見せたいものって?」

「そう、これ…だよ。」

「な…ナイフ…?」

手のなかでキラキラと光を反射しているのは、かなり鋭そうなナイフ。

「そう…。ふふ…綺麗でしょ…?」

「そ、そうだね。」

見せたいもの…って…ナイフのことだったんだ…。

それにしても、たくさんあるなぁ。

「これは…バタフライナイフ…。こっちは…ダガー…。」

心底嬉しそうな顔でナイフを手に取り、磨いていくアズサくん。

「わ…これは?」

目に入ったのは、ひときわ刃の大きなナイフ。

「それは…ククリナイフ…っていうんだよ。」

「へぇ…。」

それにしてもナイフって色々な種類があるんだなぁ。

収集したくなる気持ちもなんとなく分かるかも。

「そうだ…ねぇ、ユイさん。」

「なに?…ってきゃあっ!?」

振り返ったらナイフ…っ!

び、びっくりした…っ!!

「このナイフに…名前をつけて欲しいんだ。」

「な、名前…?」

「そう。俺の傷みたいに…。ナイフは…友達を作ってくれる…大切な…存在…だから。」

だから、ね?
と微笑みながらナイフを差し出される。

「うん、いいよ?」

ナイフに…名前か…。

「本当?良かったね、リリアンヌ。また友達が出来るよ?ふふ…。」

あ、あのバタフライナイフ、リリアンヌって名前だったんだ。

「そ、それじゃあ…ノア…とか?」

ふと思い付いたのは、あのノアの方舟の、ノア。

「ノア…ふふ。いい名前…ユイさん…ありがとう。」

ヴァンパイアなのに純粋に微笑むアズサくん。

「お礼に…ノアで友達を作ってあげる。」

「へ…?」

雲行きが…怪しい…。

「このナイフの切れ味、ユイさんで…試したいんだ。」

「い、いや…!」

綺麗に光るナイフは、少し触れただけでも簡単に切れてしまいそうなほどに鋭い。

「なんで…?血を吸われるときと…同じ…なのに…。」

「ち、違うよ!」

そりゃいつも吸血されるから、皮膚を傷つけられるなんてことは、日常茶飯事だ。

でも、自分で傷をつけることは、それとは別。

「じゃあ…んん…。」

「ひゃあっ!」

なんの前触れもなく腕に走る痛み。

吸血…されてる…!

「これなら…いいでしょ…?」

「よくな…いっ…よ…!う…っ!!」

脚にも、痛みが走る。

でも、牙じゃない。

さっきの、ナイフだ。

「ふふ…どう?ユイさん…。痛い?ねぇ?痛い?」

「う、うん…。」

痛い。

腕も、脚も。

「どんな風に痛いの…?ピリピリ…?それとも…ズキズキ…する?」

「ズキズキ…する…。お願い、アズサくん…も…やめて…?」

アズサくんがナイフで切ったのは、一ヶ所じゃない。

脚のあちこちにズキズキとした鈍い痛みが走る。

「なんで…?痛いの…いいでしょ…?」

「う…あ…。」

どれだけ血が流れたんだろう。

どれだけ傷が増えたのだろう。

私の意識は朦朧としていて、アズサくんが愉しげに微笑むのが、最後に見えた。

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