生贄の花嫁U
□洗い流して
1ページ/1ページ
何もいかがわしい事なんてしてないのに。
カナトくんは私の言葉を信じてなんてくれない。
知らない、知らないの。
私は何もしてないの。
ただ声をかけられただけなのに。
道を聞かれただけなのに。
手首にうっすらと血が滲むほど強く捕まれ、連れていかれる。
怖くて怖くて仕方なかった。
しかし、それ以上に私が信用されていないという現実が悔しくて涙が出た。
「君はいつになったら分かるんですか?」
「っ…。」
何も信じていない、冷たい瞳。
カナトくんにこんな風に見られるのは久しぶりで、以前まで抱いていた恐怖が少しだけ思い出されるようだった。
「あんな汚らわしい人間なんかと話すなんて…。本当に馬鹿なんですね。」
「ごめん…なさい…。」
「謝ったところで君にこびりついた汚れは落ちないんですよっ!!」
「きゃっ!」
頭から何かをかけられた。
冷たい。
これは…水?
「か、カナトくん…っ!やめてっ!」
バシャバシャと容赦なくかけられる水は、あまりの冷たさに体が固まってしまうようで。
このままかけられ続けたら、凍死してしまうんじゃないかという考えまで浮かんでくる。
「やめて?僕は君についた汚れを落としてるんですよ?ここは感謝するところなんじゃ、ないですか?」
「そんな…っ!」
「口答えするなっ!!」
「っ!」
バケツいっぱいの水を再びかけられる。
着ていた制服はもう水でびしゃびしゃで、服としての役割を果たしていなかった。
「あっははははっ!惨めですね?でも、君がイケないんですよ?僕のこと、裏切ったりするから。」
「ごめんなさい…。」
私にできるのは、ただ謝って、カナトくんの怒りが収まるのを待つことだけ。
それ以外の事をしようとも、もう彼には通用しない。
「へぇ、ようやく素直になりましたね。ねぇ、もうこれで他の男なんかと話したくなくなったでしょ?」
「うん。もう…カナトくん以外の人とはしゃべらないよ…。」
そうだ。
そうやって、私をぐるぐると縛ってしまえばいいんだ。
そうすれば、きっと、少しは楽になれる。
私にはカナトくんだけ。
カナトくんには私だけ。
そうやって考えれば、きっと今のこの状況は正常に見えるはずだもの。
私はカナトくんを裏切って、他の男の人と話した。
だからこうやってお仕置きされる。
ほら、正常な事でしょ?
「ふふ。ユイさんは本当にいい子ですね。」
優しく優しく髪の毛をなでられる。
カナトくんに撫でられて、心地いい。
少しだけ自分の考えを変えてしまえば楽になる。
もう、私の中にはカナトくんしかいない。
カナトくんと、私だけの、小さな小さな夢のような世界。
このままずっと、ここで暮らせれば。
私は幸せになれるのかな?