生贄の花嫁U

□洗い流して
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何もいかがわしい事なんてしてないのに。

カナトくんは私の言葉を信じてなんてくれない。

知らない、知らないの。

私は何もしてないの。

ただ声をかけられただけなのに。

道を聞かれただけなのに。

手首にうっすらと血が滲むほど強く捕まれ、連れていかれる。

怖くて怖くて仕方なかった。

しかし、それ以上に私が信用されていないという現実が悔しくて涙が出た。

「君はいつになったら分かるんですか?」

「っ…。」

何も信じていない、冷たい瞳。

カナトくんにこんな風に見られるのは久しぶりで、以前まで抱いていた恐怖が少しだけ思い出されるようだった。

「あんな汚らわしい人間なんかと話すなんて…。本当に馬鹿なんですね。」

「ごめん…なさい…。」

「謝ったところで君にこびりついた汚れは落ちないんですよっ!!」

「きゃっ!」

頭から何かをかけられた。

冷たい。
これは…水?

「か、カナトくん…っ!やめてっ!」

バシャバシャと容赦なくかけられる水は、あまりの冷たさに体が固まってしまうようで。

このままかけられ続けたら、凍死してしまうんじゃないかという考えまで浮かんでくる。

「やめて?僕は君についた汚れを落としてるんですよ?ここは感謝するところなんじゃ、ないですか?」

「そんな…っ!」

「口答えするなっ!!」

「っ!」

バケツいっぱいの水を再びかけられる。

着ていた制服はもう水でびしゃびしゃで、服としての役割を果たしていなかった。

「あっははははっ!惨めですね?でも、君がイケないんですよ?僕のこと、裏切ったりするから。」

「ごめんなさい…。」

私にできるのは、ただ謝って、カナトくんの怒りが収まるのを待つことだけ。

それ以外の事をしようとも、もう彼には通用しない。

「へぇ、ようやく素直になりましたね。ねぇ、もうこれで他の男なんかと話したくなくなったでしょ?」

「うん。もう…カナトくん以外の人とはしゃべらないよ…。」

そうだ。

そうやって、私をぐるぐると縛ってしまえばいいんだ。

そうすれば、きっと、少しは楽になれる。

私にはカナトくんだけ。
カナトくんには私だけ。

そうやって考えれば、きっと今のこの状況は正常に見えるはずだもの。

私はカナトくんを裏切って、他の男の人と話した。

だからこうやってお仕置きされる。

ほら、正常な事でしょ?

「ふふ。ユイさんは本当にいい子ですね。」

優しく優しく髪の毛をなでられる。

カナトくんに撫でられて、心地いい。

少しだけ自分の考えを変えてしまえば楽になる。

もう、私の中にはカナトくんしかいない。

カナトくんと、私だけの、小さな小さな夢のような世界。

このままずっと、ここで暮らせれば。

私は幸せになれるのかな?

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