生贄の花嫁U

□夜の虹
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「あ…雨…」

来るときはあんなに晴れていたのに、この時間になって急にザーザーと降ってきた。

「どうしよう…。」

日直の仕事をしていたため、遅くなってしまった。

リムジンは既に帰ってしまっているだろう。

いつもなら鞄の中に入っている折り畳み傘も、昨日使ってしまって、家にある。

「走れば…なんとか…!」

こうなったら鞄を頭に乗せて走るしかない!

幸いこの学校の指定鞄は革。

多少濡れても中の教科書にまで被害は及ばないだろう。

所々雨宿りしていけばなんとかなる…かな。

「よし。」

覚悟を決めて、駆け出そうとした時だった。

「おい。」

「あれ?スバルくん。」

とっくに帰ってると思ってたんだけどな。

「お前…この雨の中帰るつもりか?」

「うん?だって他に方法もないし…。」

早く帰らないとレイジさんになに言われるか分からないしね。

「わっ!」

急に雨が吹き込んできた。

校舎の入り口にまで吹き込んでくるなんて…。

うーん…これは結構本気で降ってきてるなぁ…。

「ちっ。」

「わわっ!ど、どうしたのスバルくん!?」

急に腕を捕まれ、引っ張られた。

バランスを崩し、スバルくんに倒れこんでしまう。

わ!だ、抱きついちゃった…っ!

「っ…な、なんでもねぇ!」

「?」

うーん?

スバルくんの行動の意図が読めないときはそんなにないんだけど…。

こればかりは分からない。

雨に濡れただけなんだけど…?

「とりあえず!車呼ぶから待ってろ。」

「え!呼んでくれるの!?」

「俺も帰るしな。」

そのついでだ。

なんて言いながら使い魔を飛ばしてくれるスバルくん。

優しいなぁ…。

「あれ…わ!スバルくん!雨やんでるよ!」

ふと外を見ると既に雨は止んでいた。

「あ?なら歩いて帰れるか。」

「ん…?わぁっ!見て!虹が出てる!!」

「虹?夜に虹なんて出るわけ…。」

出ていた。

満月に近い、大きなお月さま。

真っ暗な空に浮かぶ、薄いけれど綺麗な虹。

「た、確か月虹(げっこう)って言うんだよね!?」

「そうなのか?」

「うん!なかなか見られない、すっごく珍しい虹なんだよ!」

普通の虹よりも。
流れ星よりも。

目撃できる確率の低いと言われている夜の虹。

「ふふ♪」

思わず顔が緩んでしまう。

「あ?なに笑ってんだよ。」

「ん?スバルくんと見られて幸せだなぁ。なんて思ってみたり。」

「ばっ!何言ってんだ!!」

スバルくんは顔を真っ赤にしながら手をさしのべてきた。

「と、とりあえず!帰るぞ!」

「うん!」

差しのべられた手を握り、私はスバルくんに笑いかけた。

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