少女幻想
□少女幻想――act1
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――act1
少女との邂逅の夜から既に三日程時が過ぎた。
彼女は未だ目を醒まさず、身柄は探偵社の医務室から今は警察病院の一室へと移されていた。
脳波、バイタル共に異常は無いものの、覚醒する兆候は一向にみられない。
彼女の昏睡は外的要因ではなく、心因性のものではないのかと、医師は自分達に告げた。
今、敦はこの少女の護衛兼、見張りを任されている。
彼女はユーフォリアへ至る為の数少ない手懸かりだ。逃亡される事のないよう監視の目は怠れない。
それと共に、彼女自身が狙われているという可能性もある。
監禁されていたとするならば、当然、監禁した当人が彼女を探していると考えるのが自然だ。
ましてや、彼女が禁止薬物に関与しているとすれば、逃走した時点で口封じの為の手を、彼女に差し向けているという考えも捨てきれない。
故に、自分はこうしてベッドに伏せる少女の傍らに座り、護衛という名目の無為な時間を過ごしている訳なのだが……
「何て言うか……気不味いなぁ、これ」
女性の無防備な寝顔を、恋人でもない自分が眺めていて良いものかと、僅かに思い煩う。
伏せた長い睫毛、水蜜のような唇、柔かそうな薄紅色の頬。
少女特有の色香というのか、ソレに当てられ居住まいが悪い事この上ない。
「……国木田さん…早く帰って来ないかな」
彼女が所持していたコートから出てきた、あの薬物の成分結果が出たとかで、現在、国木田は科研へと赴いている。
十中八九、ユーフォリアであろうが、その結果いかんでは、今後の彼女への対応も大きく変わる事となるだろう。
ぐぅ。静かな病室に間の抜けた音が、ふいと響いた。
携帯で時間を確かめる。
時刻は昼時をとっくに過ぎていた。そろそろ、腹の虫が辛抱堪らんと暴れだしそうだ。
粗衣粗食を努めているとはいえ、やはり腹は減る時には減るものである。
ぐぅ〜と、今度は主張を強めに。敦の腹が再び鳴るや、病室の扉が徐に開いた。
振り返れば、部屋に入ることなく国木田が入り口で佇んでいる。
彼は、くいと顎先を外へと遣り、出ろと自分を急き立てた。
促されるままに病室から出ると、開口一番、国木田から気重な事実を告げられる。
「……やはり、あの娘が所持していた薬物はユーフォリアだったぞ。しかも、極めて純度の高い代物だった」
「純度…ですか?」
「ああ。現在、巷に出回っているユーフォリアは流れている数自体が少なく、別のドラッグを水増しして売買されているモノが殆どだ。だが、彼女のユーフォリアには不純物が殆どない。これが、どういう意味か…敦、お前には分かるか?」