少女幻想

□少女幻想――prologue
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そう、国木田からの慰め(?)の言葉を受けた敦は、伏せ気味であった顔を徐に上げて、そうですか…と実に気のない返事を彼に返した。

軍警より武装探偵社に託された仕事。
それは昨今、横浜で横行するある違法薬物の売人の摘発、及びその製造元を調べ上げ、売買ルートを潰す事であった。

その名をユーフォリア。

覚醒剤の倍程の覚醒作用のある、新種の違法ドラッグである。
依存性も高く、そのレートは日に上がり続けている。
若年層に浸透させる前に、軍警はこれを抑えておきたい腹積もりであるらしい。

「違法ドラッグの摘発は正直、鼬ごっこだ。精査し、我が国で漸く禁止薬物に指定されても、その次の日には外国(とつくに)で禁止薬物とされた薬が流れ込むというのが実情だ。今のところ、この悪循環を断つような良策はない。だが、だからと言って捨て置く訳にもいくまい。ましてや、それが更なる厄災をもたらす物であるならば尚更、な…」

国木田は苦い面差しで、煩わしそうに眼鏡のブリッジを指で押し上げた。

違法ドラッグ、ユーフォリア。
心身を蝕む害悪的な薬物である以上に、これには少しばかり厄介な副作用が確認されていた。

人智を超えた力。
ドラッグをきめた極数人の中毒者に、異能を発現した者が現れたのだ。

発現時間は数時間から数日と有限ではあるものの、この事実は国体を脅かし兼ねない脅威的なものであった。

「後天的に異能力を手にする事が出来る。この事が周知されれば、不埒な真似を行う有象無象が世に蔓延る事となるだろう。それは、この国が秩序とは無縁の無法の地に変わる危険性を孕んでいる、ということだ」

全く以てぞっとしないと、国木田は眉を顰める。
確かに、強大な力を手にしたならば、その力を試したいという欲求に駆られる人間も少なくはないだろう。
それが身の丈に合わぬ力である程に、凄惨な結末を迎えるという事は想像に易い。
最悪な未来を幻視(み)た気がして、敦はみっともなく唾を呑む。

国木田は減速させると車を路肩に寄せた。
どうやら今回の目的地に着いたようだ。

彼はグローブボックスから銃を取り出すと、初弾装填(コッキング)を行う。

「着いたぞ。小僧、お前も武装探偵社の一隅であるならば、覚悟を決めろ」

そう言い捨て、国木田は先に車を降りていった。

そうだ。あの幼い鏡花でさえ自分自身の可能性を模索し足掻いていたではないか。
年端もいかぬ少女が、覚悟を持って武装探偵社に残ったのだ。
年上の、ましてや男の自分が臆してどうする。

「――よし!!」

パァン!と、敦は自らの両頬を思い切り叩き気合いを入れ直すや、国木田の後を急ぎ追った。
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