シンフォニア

□天罰
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「──暇だなぁ」

あれから数日。特に何事もなく日々は巡る。ぼんやりと見つめる窓の外は晴天。雲一つない晴れ模様だ。
外では今し方、訳あってアルテスタ宅に居候中のミトスくんの姿があった。ウルフ型の魔物となにやら真剣に向き合う彼は、昨日ようやっと習得した魔物の言語を試しているに違いない。先ほどからパクパクと、小さいながらもその口が動いている。

「……所詮は子供か」

新しく、珍しいことに興味がある子供。今のミトスくんはまさにそれだ。どんなに大人ぶっていようとも、童心は変わらないらしい。

「──リレイヌ。ちょっといいか?」

ぼんやりと考え込んでいたら、ふと声をかけられた。振り返れば、小さな麻袋を手にしたアルテスタさんの姿が確認できる。

「はい。なんでしょう」

窓から視線をそらし、問いかける。アルテスタさんは一度頷いてから、こちらへと近づいてきた。

「実はな、オゼットまで配達に行ってもらいたいんだ。わしが行きたいのは山々なんだが、まだちと仕事が残っていてな」

「オゼットまでですね。わかりました」

頷き、窓から離れる。そうしてアルテスタさんから荷物を受け取り、私は早速と家の外へ。音に反応して顔をあげたミトスくんに目を向ける。

「出掛けるの?」

「はい。ちょっとオゼットまで」

「そう。ボクも行くよ」

魔物を一瞥し、告げたミトスくんはこちらへ。ととと、っと着いてくる魔物に「来ちゃダメだよ」と言いながら私の方へ寄ってくる。

「なつかれてますね」

「だね。なんか犬みたい」

すり寄るウルフに心を許したのか、ミトスくんはウルフの頭を撫でてやりながら微かに笑った。その優しげな表情に、ウルフも「わふっ」と嬉しそうに鳴く。見ている限り、良いコンビなのだが……。

「ほら、オゼットに行くんでしょ? ならはやく行こう」

ウルフから手を離し、告げたミトスくん。その言葉に頷きを返し、私は彼と共にオゼットへ。背後から着いてくるウルフも一緒に、アルテスタさんの家を後にした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「──リレイヌちゃん! いつもありがとな! これお駄賃だ! ちょっとかさ増ししてるから、アイスでもお菓子でもなんでも買ってくれ!」

ばちこん!、とウインクをかましてくる店員に「ありがとうございます」と礼を告げ、店を出る。そうして、外で待っているであろうミトスくんと合流するべく、足を前へ。町の外へと一人向かう。

かさ増ししてもらったお駄賃はなにに使おう。ミトスくんとアイスキャンディーでも買って食べようか。

そんな呑気なことを考えていると、突如ゆるりと空気が揺れた。奇妙な動きのそれに足を止めて顔をあげれば、空に分厚い雲が広がっているのが確認できる。あれはなんだ。
睨み付けるように雲を凝視していると、「リレイヌ!!」と遠方から声が。振り返れば、ミトスくんがウルフを引き連れこちらに駆けて来ているのが確認できる。彼もこの異常に気づいたようだ。私の隣まで来ると、「あの雲、おかしい」と一言だけ口にする。

「はい。異常な魔力を感じます。恐らくは何者かの術で生成されたものでしょう」

「あんな大規模なもの、作り出せる人がいるっていうの?」

「いるからこうなっていると思うのですが……」

そこまで言って、私はハッとした。ハッとして、ミトスくんの名を呼び、その小柄な体を押し退ける。ミトスくんは驚いたような顔で、私のことを見つめていた。

そんな私の足元、封の紋様が刻まれた武器が突き刺さる。
トトトッ、と音をたてて地面に刺さったそれは、紫紺の輝きを放っていた。

「おや、残念。外れか」

声が聞こえる。しかし、姿は見えない。
魔法アイテムでも使っているのか、気配すら遮断されたそれに舌を打てば、同じくして頬を掠める鋭利な何か。銀色に輝くそれは背後の大木に突き刺さると、地面に刺さった武器と同様に紫紺色を発生させた。

「っ、……(ここは町中。ミトスくんもいる。部が悪いぞ、これは……)」

さすがにこのような町中で争い続けていては、いつか騒ぎに気づかれる。そうなってしまえば被害が広がり最悪の結果を招くことになるだろう。

思考する私はその場から退くべく、一歩後退。そのまま踵を返そうとして、それが誤った選択だったことを痛感する。

「リレイヌ──ッ!!!」

ミトスくんの悲痛な声を耳に目を見開けば、目の前に、突如現れた一人の男。彼が楽しげに口端をあげた直後、腹部を襲った違和感に、私は為す術もなく支配された……。
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