シンフォニア

□名前
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──グランテセアラブリッジ。

なんとかここまで駆け抜けた者たちは、そのまま必死に先を目指す。大事な仲間を救う為に。
真剣な表情は強い意思を表しているようで、なんだか物珍しいものを見ている気分だ。
上がる橋を見ながら、私は一人考える。

「くそ、足止めするつもりか! 飛び越えるぞ!」

「おいおいおい。無茶言うなよ! 橋から落ちたら死んじまうぞ!」

焦って止めに入る赤毛男──ゼロスさんに、リーダー各らしい赤色の青年──ロイドさんは強い口調で言い返す。

「ほっといたら先生たちも死ぬ!」

「……追跡します」

速度をあげて自分の横を通り過ぎて行く彼らに、ゼロスさんは呆れたように肩を竦めた。

「……アツイねぇ」

言って、彼もまた、皆を追いかけるように走りだす。

「よいしょっと」

軽々と橋を飛び越え後ろを見れば、確認できたのは金髪の天使──コレットさんだけだった。まさか落ちたのかと目を瞬いていれば、橋の向こう側から「ウンディーネ! 助けて!」と声が上がる。着物美女──しいなさんの声だ。

少しして向こう側から飛んで来た彼らに駆け寄れば、皆、どこか青ざめた顔で一息吐いていた。まだ目的は達していないのに、緊張感のない子達である。

「……未知の存在により着地。損傷箇所、無し」

「うへぇ……死ぬかと思った」

「しいな、助かったよ!」

ロイドさんが振り返り、しいなさんへと笑いかける。

「呼び出せて良かった……」

ほっと胸を撫で下ろしたしいなさんは、小さく息を吐いていた。

「……あの。ジーニアスと先生が……」

プレセアさんの言葉に前方を見れば、探し人の姿を発見する。喜ぶ銀髪二人の少し後ろ、大きく目を見開いた少年は、唖然としながら私の姿を見つめていた。

「……どうして」

小さく紡がれる動揺が、耳に届く。

「俺たちの仲間を返せ!」

構える騎士団に、ロイドさんたちもそれぞれの武器を構えた。私は非戦闘員として扱われるようで、ゼロスさんが目の前へ。たくましい背中越しに、「リレイヌちゃんには指一本触れさせねえから、安心してくれよな!」と声をかけられる。紳士か。
とりあえず頷き、戦闘終了を待った。

その場にいた騎士が全員倒れると、ジーニアスくんであろう銀髪少年が、喜色満面の笑みでロイドさんたちを呼んだ。それに続くように、麗しい女性が歩み寄ってくる。

「……助けに、きてくれたのね」

「当たり前だろ。仲間なんだから」

その言葉に、恐らくリフィルさんであろう彼女は、「仲間……」と呟いた。

その姿を横目、私は一人金髪の彼の元へ。うつ向く姿を前、「お怪我は?」と声をかけてみる。

「…………どうして来たんだよ」

めいっぱいの沈黙の後、彼は消え入りそうな声で吐き捨てた。

「ボクはお前を利用するために近づいた……その力を……それに、ボクはハーフエルフだ……ハーフエルフは嫌われて、迫害されて、追い出されて……なのに、なんで……」

わからない、と言いたげだった。
まるで理解できないと、そう、言いたげだった。

罪悪感からか、無言で拳を握る少年。下手をすれば爪が食い込み、傷ついてしまうそれを、私はやんわりと掴み、両手で包む。

「約束しましたよね? 魔物の言語、教えるって……大体、利用しようとしただけで、実際君は私を利用できてはいない。ならそれでいいじゃないですか」

「……でも、ボクは──」

「ハーフエルフだろうがなんだろうが、君は君でしょう?」

ハッとしたようにあげられた顔が、視界に写る。どこか怯えたようにも見えるそれをしっかりと見ながら微笑めば、自然と、少年の震えは収まった。
ゆるく握られる手に、僅かばかりだが力がこもる。

「一緒に帰りましょう。それから勉強ですよ」

くすりと笑い、一言。
少年は無言で目を瞬いたあとに、フイッと顔を背けてしまった。
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