ヒロアカ
□夏休み
1ページ/2ページ
ついにこの日がやって来た。
常夏の世界から長年過ごした神の地へ。神聖なるその場所に心癒されながら、荷物片手に屋敷の門を潜る。そうして相も変わらず広々とした屋敷に踏み込めば、「おかえりなさーい!」と可愛らしい声がボクたちのことを出迎えた。
「記録くん!」
「久しぶりー!お仕事順調?不調ない?」
「大丈夫大丈夫。それよりリレイヌは?」
「執務室!仕事中だよ!」
「相変わらず仕事漬けか」
彼女はもう少し、休むということを覚えた方がいいと思う。
ひそりと考え、背後を振り返る。ガチガチに固まったトガと分倍河原に苦笑を浮かべつつ、ボクは「ついておいで」と歩き出した。
向かうは執務室。リレイヌの元だ。
「今からボクたちの主に会わせるから、粗相のないようにね。まあ大抵の事は許してくれる寛大な人だけど……」
「下手な真似したらぶっ飛ばすから」
「落ち着け」
くだらない会話をしていたら、執務室前に到着。軽く息を吐いた後にコンコンッと部屋の扉をノックすれば、「入れ」と短い声。
「失礼します」
扉を開けた。
「主様。ご無沙汰しております。ミトス、シンク、リオン。ただいま帰還致しました」
「怪我がないようでなによりだ。それはそうと、後ろの者は?」
「はっ。右から分倍河原仁とトガヒミコです。二人は今現在、ボクたちの協力者として共に過ごしています」
「なるほど。リレイヌ・セラフィーユだ。よろしく」
柔らかに笑んだ彼女に、二人が呆ける。シンクが「なにボーッと突っ立ってんの?」と低い声を発せば、彼らは慌てて名乗り、挨拶。深々と頭を下げた。
「ふふっ。礼儀のなった子達だね」
「主様寛大すぎない?」
「これくらいで怒る方がどうかしてるよ。それより、仕事の方は順調かい?」
「ぼちぼちだな」
「そうか。まあなにかと疲れたろう。暫くはゆっくり休むといい」
「「「はっ」」」
頭を下げ、シンクたちを見る。二人はそれで言いたいことを察したらしい。「失礼します」と、分倍河原とトガを連れて出ていった。残された部屋の中、ボクは一人彼女を見つめる。
「……オールフォーワンのことかい?」
こくり。
頷けば、彼女は困ったように微笑んだ。
「敵側に協力者を作った際に私のことを話されたみたいでね。いろいろと探られ捕まった。我ながら情けない話しさ」
「だから現在敵に協力者はいないの?」
「そうだね。どこで私の居場所を突き止めてくるかわからないから、一応警戒して」
「ヒーロー側から漏れる可能性は?」
「あるよ。まあだが、此処を知るのはホークスくらいのものだ。あの子は口が固い。大丈夫さ」
「大丈夫なら、いいんだけど……」
されど不安だと彼女を見遣れば、「私のことはいいから、仕事に専念しなさい」と告げられる。なのでボクは返した。「オールフォーワンは討つ」と。
「例え過去の事でも、リレイヌに手を出した時点でボクたちは奴を許せない。私怨と言われようが奴は倒す。絶対に」
「君たちの力量なら大丈夫だとは思うが、そこら辺の石ころにわざわざ反応する必要もないと思うがなぁ」
「あるの」
「はいはい。好きにしなさい」
投げやりに彼女は言った。
「ところで、問題などは出てきてないかい?生活する上での事柄や、今後の過ごし方など」
「今のところないけど……あ、そうだ。高校はどうすればいいの?あと二年は余裕あるけど、今のうちに考えといた方がいいって緑谷に言われてさ」
「緑谷?」
「あー、友達」
なるほど、と頷くリレイヌ。彼女は少し考える素振りを見せた後、「根津の所に行けばいいんじゃないかい?」と言葉を返した。
根津の所といえば……。
「雄英?」
「そうそう。ヒーローを目指す者にとっては最高峰である高校」
「ボクたち別にヒーローは目指してないけど……」
「なら普通科とかあるからそっちに行けばいい。それに、根津の近くにいた方が彼も何かと手を回せると思うしな。私たちも会いに行きやすい」
「そっか。ならそうする」
「うん。そうしてくれ」
ほら、久々の帰還なんだ。皆に挨拶を。
そう言われ、頷き、扉へ。ふと足を止め、不思議そうな彼女を振り返る。
「ただいま、リレイヌ」
一拍の間の後、優しいおかえりが降ってきた。