アビス2
□試練
1ページ/3ページ
──『新造の箱庭』。
文字通り、『新たに造り出す』場所として、この場にはその名が与えられた。元あるものを作り変える、なんて受け取っている者もいるが、どう取ろうとも大した問題はないだろう。
一応聖域に分類されるここは、かなり前の代となる龍神が、たまたま発見した鉱山を改造し、作成したそうだ。故に、中には多くの鉱石が眠っている。
「鉱山なんだ、ここ……」
白く染まったローブを身に纏い、顔に大きな布を貼り付けた、守人たちを横切り、シンクは言った。白地の布に、赤い色で描かれた簡易的な目がギョロリと動いたことに驚く彼らを横目、私は頷き、足を止める。
見えてきた、例の鉱山内部へと入ることが可能な出入り口。ギリシャを連想させてくれるような作りのそれは、一つの遺跡へと繋がる、特別な門のように見えなくもない。
白で塗られた、軽く塗装の剥がれかけた建物を視界、パタパタと寄ってきた桃色の彼女に挨拶。ぺこりと頭を下げた彼女に、ミトスたちが「……管理者?」なんて声を揃える。
「お、よくわかったね」
「なんか雰囲気が師匠たちと似てた……」
なるほどな、と頷いた。
「リレイヌ・セラフィーユが管理者、ソルディナと申します。皆様は龍の遺産であらせられますね? お会いできて光栄です」
穏やかに微笑む彼女に、皆は挨拶。名を名乗り、頭を下げたところで、別の馬車に乗っていたイーズたちがやって来る。
「……さて、ミトス、シンク、リオン」
名を呼べば、3人は振り返った。
「鉱山内部はオルラッドが言っていたように、生物を拒絶する場所だ。いつもの様に戦えないのは明白だろう。そしてここは、君たちのトラウマを形にする。3人共にあれば、まだなんとかなると思うが……」
そこまで言えば、「長ったらしい説明はその辺にしてとっとと突っこみゃいーんじゃね?」と新たな声。振り返れば、優花を連れたリオルがそこにいる。どうやら試練を受けさせるということを耳にし、見学に来たようだ。
「あ、リオル」
「リオル様、な。それはそうと、わざわざ死の試練受けようなんざお前らも変わってんなー。俺ならぜってー受けない」
「このまま神族になることに納得できないだけ」
「頭かてーなぁ。もちっと柔く生きた方が懸命だぞ」
カラカラ笑い、リオルは視線をこちらへ。「聞くより見た方が早い」と告げる彼に、「……そうだな」と頷き手を叩く。それにより、鉱山内に続く道が開かれた。守人が避けたことにより、深い闇をたずさえる鉱山の入口が、獲物を待つように口を開ける。
「無理だと判断したらやめてもいい。わかったね?」
こくりと頷いた3人が、「行ってきます」と鉱山へ向かい駆けていく。その背を見送り、小さく息を吐いた私は、彼らが無事に戻ってくるように、ただ祈った。